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ハーレクインもどき(39)の番外編 【ゆうやん様よりご寄稿】

先日アップしたハーレクイン39ですが、高揚感からあの日の夜、ああなっちゃったロイロイですが、他のメンバーは?ってことで、ゆうやんさんが、ビッテン編とファー様編を書いて下さいました。
このハーレクインもどきシリーズでは、ビッテンとファー様の私生活の設定を、ゆうやんさんのサイト『真帆片帆』の長・短編シリーズの設定をお借りしています。
またまたこんな素敵なものを書いて下さったゆうやん様に深く感謝いたしております。
どうぞ、ご堪能下さい。


会議が済んで官舎であるホテルの一室に戻ったビッテンフェルトは、これも一度はシルヴァーベルヒに着いていったビアンカが訪ねて来たのを迎え入れた。
「お前のほうも終わったのか?」
「対策を打とうにもビルは半壊して安全チェックするまでは入れないのよ。被害状況も完全に把握できてないうちにジタバタしても仕方ないし自分は無事だからフリッツのところに行ってこいってブルーノ様が。」
「そりゃ、ありがたいこって。」
人の悪い笑顔を見せる友人の顔を思い浮かべてビッテンフェルトもにやり、と笑う。
「今日は本当にありがとう。怪我は大丈夫?」
「ああ。こんなの怪我のうちにも入らんさ。ま、何はともあれお前には怪我がなくてよかった。」
ガーデンパーティーを楽しんでいる最中に突如テロらしき爆発が起こった。突然のことに呆然としている間にも次々と爆破は起こり、ガラスの破片が降り注ぐ。避けないと、と思いつつ足が動かないでいたビアンカ目掛けて落下したガラス片を咄嗟にビッテンフェルトが自らの左腕に突き刺させた。そして動くことも声を出すこともできない様子を見て取るとそのまま抱き上げ、驚くほどのスピードで屋内へと運んだのだった。

ビッテンフェルトの右側に腰を下ろすとビアンカがふと小さな声で呟いた。
「フリッツに何かあったら、どうしていいかわからないよ。みんな凄かった。なのに私ってばダメね。パニくっちゃった。」
「そりゃ、伯爵夫人はともかく他の女性はみんな軍人だ。あんなことであわててる様では勤まらんさ。」
「でも・・・。」
そう言うと一気にシュンとしたビアンカの頭を引き寄せてダークブラウンの髪をポンポンと撫でる。工部尚書の懐刀とか未来の尚書候補なんぞと言われているが、こうしているとそんな気配は見当たらない。
(いつもはしっかりして、張り詰めてるような女がふっとした瞬間にみせる甘えやら弱さやらは、普通の女のそれよりもはるかにぐっと来るんだよな。)
現場でついた埃や汚れを洗い流してきたのだろうダークブラウンの髪からはシャンプーの甘い香りがして、雄の本能をくすぐる。戦場でもそうだが非日常に昂ぶった本能はまだ新たな獲物を求めている。そのまま髪から耳朶、耳朶から首筋、頬から唇へと唇を走らせながらカットソーの下から直接肌に触れる。舌を絡めながら指先で肌のあちこちを愛撫すると喉の奥で、くぅと音が鳴るのがわかる。それを合図に唇を離してするりと服を脱がせる。露になった白い肌に唇を走らせながら背中のホックを器用にはずし豊かなふくらみに顔を埋めた。
(外の状況的にしかたないが、こういうときにデニムってな扱いにくいな。)
ジーンズを引き下げて付け根から太ももまで痕の残るほどに吸い付きながらビッテンフェルトは考える。

まだ着たままだったシャツを脱ぐ時にふと視線を感じて動きを止めた。息が上がってしまい蜂蜜色の瞳を潤ませたビアンカが見上げている。
「フリッツの顔・・・ちょっと怖くなってる。」
「あ?」
「私ばっかり変にして、観察してる。」
「しがいのあるものしか観察しねぇよ。」
そう言うとシャツを脱ぎ捨てて、改めてビアンカに覆いかぶさると、もう一度耳朶を噛みながら囁いた。
「ま、くだくだ言うのは後にしようか。明日からお互いに忙しくなるからな。」

夜はまだ始まったばかりである。

【ゆうやんさんより】
ここのところバレンタインだの誕生日だのでこちらはエロ系路線ばかり書いてたのでちょっと自分でも使い古し感がありますが。
軍人さんたちはともかく、普通に戦場とか知らない人間だったら簡単に腰の一つや二つ抜かしても当然ですよね~と。
最後にビッテンに言わせたように、事後処理やら何やらで事故翌日以降はきっと昼夜不問に忙しいと思われ。非日常体験への興奮&もうすぐお預け(ロイとは違う意味ですがw)でこの後は朝まで・・・・だったことでしょう。うん。



**********


「ただいま~。さすがに疲れた・・・。」
寝室に入ってきた声にファーレンハイトはまどろみから引き戻された。昼に起こった爆破テロの被害は凄まじく、今夜のベルタは戻ってこないのではないか?と思っていたのだ。
「早かったな。バッケスホーフ・・・だったかな?はどうした?」
「うん。大丈夫。ちょっとシャワーしてくる。」
現場から直接仕事に就き、そのまま帰宅したので、ベルタはベッドに横たわったファーレンハイトに手を振ると寝室についたバスルームに消えた。

「フェザーンにはいろいろとあるけど、全自動ミスト洗浄って最高。動きたくないときに全部洗えるなんて嬉しい。」
ベルタのオレンジの髪から漂うシトラスの香りが鼻腔をくすぐる。
「フェルナーやシュトライトはどうなった?」
「ああ。フェルナー准将のほうはまぁ落ち着いたんだけど、シュトライト中将は・・・まだちょっとヤバいかも。」
サイドテーブルの上のブランデーをグラスに注いで差し出すが珍しくベルタが首を横に振る。
「アルは怪我してないのね・・・。」
「たまたまテラスにいたからな。お前が無事だったから助かった。医者は何かと重宝だ。」
傍らに潜り込んできたベルタのほっそりとした体を抱き寄せると自分の上に覆いかぶさるらせる。顔を寄せてくるままに唇を重ね夜着越しにスレンダーな体を脇から腰へと手のひらでなでるとくすぐったそうに身を竦める。
「今日、早く帰れたのには訳があってね。」
まだ少し熱い吐息を吐きながらベルタはファーレンハイトの胸を押しやって隣に寝転がらせると自分は起き上がった。
「検査受けたじゃない?」
「ああ。ま、俺は何事もなかったがな。」
「うん。怪我はよかったんだけどさ。他のことがわかったのよね。」
「なんだ?」
「聞きたい?」
「言いたい。だろうが。聞いてやらんこともない。」
「どうやらうちにもあのロイエンタールと同じことがおきちゃったのよね。」
「ロイエンタールと同じこと・・・・。お前は背中に火傷なんかしてなかろうが?」
「あのね・・・。あんな火傷してたら今頃こうして転がってないわよ。か弱い女なんだから。」
「わかりにくいな。回りくどいのは性に合わん。知ってるだろう?」
ロイエンタール、ロイエンタールと言いつつ首をかしげていたファーレンハイトだがふと言葉をとめるとガバっと跳ね起き、その勢いでベルタがベッドで転がった。
「・・・・まさか、そっちか?」
「まさかって何よ。どっちのそっち?思い当たらないとか言うんじゃないでしょうね?」
「思い当たるとか当たらないとかじゃなくて・・・そうなのか?」
「そ。まだ初期だから大事にって今日はお役ごめんにされちゃった。」
「頑張れ!お父さん。じゃ。今夜はおやすみなさい。」
にこりと笑ってベルタが潜り込んだシーツを引き剥がすともう一度、今度は性急に夜着を剥がしにかかる。ベルタが軽く頭を小突いた手を掴むと抵抗を封じ首筋を舌先で辿る。
「今更付き合いも長かったし、どってことないでしょ?」
「それとこれとは話が別だ。」
「男って本当にバカねぇ。」
そう言う彼女の唇を自らのそれで強引に塞ぐと呆気ないほど無抵抗に受け入れられる。水色の瞳に笑みを浮かべるとファーレンハイトはさらに深みへとベルタを引きずり込んでいくのだった。

【ゆうやんさんより】
どうしてだか、ファーレンハイトはお預けにされるというシチュエーションが萌える。あの速水ボイスに困ってほしいのかもしれんですwwwでも今回は強行突破で。しかし、こちらセリフばかりですね。そしてこちらでもついでに発覚させておきましたw

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ゆうやん (03/10 22:52) 編集・削除

メールいただいて見に来ました。誰得?な押し付け話を掲載していただいて本当にありがとうございました。

王子様がいいの(「天上<ヴァルハラ>の誓い」番外編SS)

(注)このお話は、今年べるさんが発行される同人誌に書き下ろした作品「天上<ヴァルハラ>の誓い」で、容量の都合上カットした部分を番外編として掲載したものです。
本編は、ロイエルものでしたが、そのサイドストーリー的に存在するライヒル部分となっています。ヴァルハラ舞台なので、基本的にお笑い系、よく言えばファンタジーです。
あまりにもくだらない内容なので、あらかじめお断りしておきます。
なお、ここのラインハルトは、キルヒアイスとアンネローゼと3人で暮らしています。


 地上では、新帝国歴77年を迎えようとしていた。
 ヴァルハラで暮らすラインハルトは、この3ヶ月間、ずっと落ち着かない日々を過していた。
 天上政府広報の「昇天予定者リスト」の中に、ヒルデガルト・フォン・ローエングラムの名を見つけて3ヶ月。いよいよ今日は、入り口門まで彼女を迎えに行く日だった。
「しかし、この姿のままでいいものか?」
 ラインハルトは、集まった者達に尋ねた。
 ヴァルハラに来た当初の彼は、キルヒアイスと2人で18、9歳の姿で暮らしていた。その後、5年程経ってアンネローゼがやって来て暫くの間は、キルヒアイスと2人10歳の少年の姿に戻り、15歳のアンネローゼと3人仲良く暮らしていたが、子供の体格では何かと不自由が多く、数年後には、またキルヒアイスと2人で20歳前後の姿に戻した。
 アンネローゼも、それに合わせて25歳くらいの年齢になったので、丁度3人でシュワルツェンの館で暮らしていた時を再現する形をとっていた。
「ええ、年齢はいつでも変えられますから、カイザーリンにお会いになってから、彼女に合わせられてはいかがでしょう」
 穏やかに助言するキルヒアイスの言葉に頷き、ラインハルトの期待は最高潮に達した。
 ヒルダは、地上で百歳近い年齢で大往生を遂げて昇天してくる。
 恐らくは、彼女が最も美しかった二十代の姿で現れると思われるので、ラインハルトも現在の姿のままで行くことにしたのだ。
 ところが、入国係官に名前を呼ばれて門をくぐったヒルダは、出迎えに来た誰もが予想もしていなかった姿をしていた。
 短く活動的だった髪は、長く縦ロールにして結われ、頭上はティアラで飾られている。
 いつも動きやすいパンツスーツを着用していたのが、大量のフリルとレースとリボンで飾られたスカートの膨らんだピンク色のロングドレスを着ていた。
 何よりも、どう見ても年齢が16、7歳の少女である。
 しかし、髪型や服装がどうであれ、ヒルダであることには違いない。
「カ、カイザーリン…!」
 ラインハルトは、緊張しながら約50数年ぶりに会う妻に声をかけた。
 ヒルダは、こちらを見ると目を輝かせている。
 やがて、うるうるとその瞳が潤んだかと思うと、一目散に駆け寄ってきた。
「王子様! やっぱり迎えに来て下さったのですね」
 両手を広げて抱きとめようとしたラインハルトに向けて、発せられた言葉は、予想とは少し違っていた。
 想定外の展開に、ラインハルトは少々驚いたものの、とりあえずヒルダを自分達の住む家に連れてきた。
「ずいぶんと粗末なお城ですのね…」
 お姫様姿のヒルダが、きょろきょろと周囲を見渡しながら、少し不安そうに言う。
「そ、そうか? カイザーリン」
「いや! ヒルダ姫とお呼びになって、ラインハルト王子様」
「う…うむ。では、そう呼ぶことにしよう。ヒ…ヒルダ。やっと、会えたな」
「はい。王子様」
「だが、王子ではないぞ。予は、銀河帝国の皇帝であり、あなたはその后だったのだ」
 途端に、少女のヒルダは悲しそうな顔になり、ボロボロと涙を流しはじめた。
「あ、ああ…予が悪かった。うむ、ここでは現世での身分は関係ないのであったな。あなたがそう望むなら、そういうことでいい」
「はい。ラインハルト王子様」
 ヒルダは、健気に涙を拭うと、ラインハルトに向けて天使の如き笑顔を見せた。
 その顔に癒されつつ、やはり何か勝手が違うと思い悩むラインハルトであった。


 
「私が思いますに、これは、カイザーリンの潜在的願望なのではありませんか?」
 毎日調子を狂わされているラインハルトが、キルヒアイスと一緒に、海鷲ヴァルハラ支店に息抜きに訪れると、事情を聞いた幕僚達の中から、ミュラーが言った。
「うむ。有り得るな。思えば、カイザーリンほど無私の心で生きたお方はおられなかったのではないか。カイザー亡き後の帝国を一身に背負われ、ご自身の幸福など顧みず、ひたすら帝国の発展とアレク陛下のご養育に生涯を捧げられた稀有な御仁である」
 長く忠臣として仕え、十数年前にここにやってきたワーレンが、腕組みしながらしみじみと言う。
「だからこそ、カイザーリンは最高のステージで昇天されてきたのであろう」
 これは、同じく地上で長年ヒルダを支えたミッターマイヤーだった。
「カイザーリンは最高ステージなのですから、我々は、カイザーリンが望むようにここで過ごさせて差し上げなくてはならないのではないですか?」
 再びミュラーが言う。
 ヴァルハラの法律では、地上での善行、悪行がトータルスコアで判定され、大相撲の番付のように、昇天者がランク付けされており、一緒に暮らす上位者の希望を、同居人は全力で叶えなければならないというルールになっていた。
 従って、ラインハルトは、自分より高ステージのヒルダの希望に沿って暮らさなければならない。
「まあ、これも地上で何もして差し上げられなかった罪滅ぼしと思ってはいかがです。ラインハルト様」
 キルヒアイスの穏やかだが、核心をついた言葉に、ラインハルトは、少し傷ついていた。
 彼とて、夫として、彼女に何もしてやれず、それどころか、残りの大変なことを全部お任せで押しつけてしまったという罪悪感がないわけではない。
「考えて見れば、お気の毒なことだ。24歳の一番美しい時期に未亡人とは。しかもお立場上、再婚も叶わず、お亡くなりになるまでずっと陛下の為に操を守り通したのですから」
 ファーレンファイトの言葉が、グサッと、ラインハルトの心臓に刺さる。
「それだけじゃない。ずっと秘書官のままで、突然婚約を発表された時点では既にご懐妊中期に入っていたし、新婚旅行先でもあれじゃなにもできんかっただろう。その後、陛下はすぐに出征されてしまうし、最期にフェザーンに戻られた時は瀕死状態。カイザーリンの女としての時間は、いったいどの程度だったのか…」
 自身も婚約者を残して戦死してしまったルッツも、グサッグサッと、痛いところを突いた。
「陛下って、フロイラインを働かせるだけ働かして、結局彼女の言うこと聞きませんでしたからねー。出兵にもその都度反対しても結局戦争しちゃったし」(グサッグサッグサッグサッグサッグサッ←ラインハルトの心に突き刺さる音)
「おまけに、あんまり恋人らしい愛情表現もしなかったしなー」(バリバリバリ←ラインハルトの心が破れる音)
「あのタイミングだと、カイザーリンには、女の悦びとやらは、なかったと見ていいな、100年近くも気の毒なことだ」
 大して気の毒そうな声で言っていないロイエンタールは、エルフリーデとヴァルハラで暮らすようになってから、やりたい放題であるらしい。
「まあ、ここはむしろ、そういった現世での不均衡を是正する為の場所ではないか。あまり陛下をお責めになるのはお気の毒だ」
 温厚なミッターマイヤーは、すぐに両者の間に割って入った。
 暫くして、俯いていたラインハルトが、突然意を決したように顔を上げた。
「予は、予はこれから、カイザーリンの望むように生きることに決めたぞ」
 幕僚達から、「おお」と声が上がり、「さすが陛下、ご決断が早い」という称賛の声まで聴こえる。
「予は、まず、カイザーリンが望むテーマパーク風の城に引っ越し、昼間はミッターマイヤーに倣って、家事全部を引き受けよう。なあに、昔取った杵柄というやつだ。それから、夜は、ロイエンタールに倣って…そのぅ…あまり自信はないのだがな…とにかく、その…がんばってみようと思う!」
 最期に力強く宣言したかつての主君に、幕僚達は惜しみない応援の言葉を贈った。
「しかし、やはりこういうことは、形から入るべきではないかね? カイザーリンが、あの姿なのだから、カイザーもそれに合わせた服装でお相手するのが、一番カイザーリンの御心に添うことになりますまいか?」
 そう提案したのは、芸術家提督のメックリンガーであった。
 一同は、なるほどと思ったものの、あのメルヘンチックなヒルダに合わせるとなると、相当恥ずかしい恰好を覚悟しなければならない。
「それは、御心配に及ばないかと。陛下なら、いや、宇宙でただ一人、陛下だけがあの衣装を着こなすことが可能でしょう」

 翌日、ラインハルトの元に、裁縫が得意なアンネローゼとエヴァンゼリンが、それぞれ夜鍋して作った自分の担当パートを持ちより、早速ラインハルトに着せ始めた。
「な…なんか、着なれないもので、ちょっと恥ずかしい気がするが…本当に、カイザーリンは喜んでくれるだろうか?」
「大丈夫ですよ。ラインハルト様以外に、誰がこの衣装を着ることができましょうか」
「そ、そうか」
 不安げなラインハルトに、キルヒアイスが太鼓判を押した。

 そして、ラインハルトは、白タイツに青の縦縞模様の提灯ブルマー、白いひらひらの襞襟付きブラウスに、深紅のマントを纏い、仕上げに頭にデッカイ王冠を乗っけた。
「おーい。こいつを忘れてるぞ」
 ビッテンフェルトが、白馬を引いてやってくると、一同は、完璧なおとぎ話の世界の王子様スタイルのラインハルトを、腹筋を鍛えながら讃えた。
 確かにこの恰好うが違和感なくできるのは、宇宙で彼くらいだろう。
「お似合いです。ラインハルト様」
「讃うべきかな、マイン・カイザー」
「カイザーリンがお喜びになります」

 古典的王子様スタイルで、白馬に跨り、ヒルダの元へ戻ったラインハルトを、ヒルダは瞳を潤ませて迎えた。
 一個艦隊に匹敵する智謀だの、男勝りだのと言われていた彼女も、本当は素敵な王子様を夢見る乙女だったのだ。
 今まで知らなかった妻の一面を見たラインハルトは、益々彼女が愛おしくなるのだった。

 こうして、地上で新銀河帝国初代皇帝夫妻だった2人は、その後数年をその姿で過ごし、ファンタジー気分を満喫するのだった。
 王子様姿のラインハルトは、生粋の令嬢の妻の為に、毎日甲斐甲斐しく家事をやったが、夜のお勤めも同じようにできたかどうかは、定かではない。

 ヴァルハラは今日も平和である。

***************
誰かこの40年前の絵本に出てきそうな王子様スタイルのラインハルトと、
べたなお姫様姿のヒルダたんを描いて下さい。お願いしますっ!

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べる (02/25 06:45) 編集・削除

えええ、これ削ったの…。
今から…以下略

Jeri (02/25 13:51) 編集・削除

>べるさん
だってロイエルだけでいいっていうから…w
他にも、シュタインメッツ×グレーチェン再会編とセットで、ルッツ×クララ再開編、ミッタ×エヴァ再会編なんかも頭にあって、あれの3倍くらいの長さになりそうなんで削ったんですが…

まこりん (02/25 14:44) 編集・削除

吹いた~。
確かに、ヒルダにも夢見る乙女だった時期があったはず。ただそれがかなり幼い頃で終了していて、ヴァルハラに15歳未満の姿で現れたりしたら、ライとしては夜のお勤めが~w
再開編、続きを期待しちゃいます。

べる (02/25 17:03) 編集・削除

シュタメッツ……欲しかったw
ミッタエヴァ…欲しかった……w

ねえもう、個人誌出すべきかと!

Jeri (02/25 23:40) 編集・削除

>まこりんさん
姉様のトラウマ持ってるライに、ヒルダが15歳以下の姿でやってきたら、また3年くらい理性を保ちそうw
再会編は、これで終わりで、それ以外はあくまでも脳内でのつもりだったんですが…期待されるとそのうち突然書いてしまうかもw

>べるさん
個人誌って、私がリアルで同人活動してた時代は、絵の人も文章の人も大手さんとはいわなくともそれなりのレベルの人が出してるという感覚だったんですが、今は違うんでしょうか?
べるさんみたいに本格的に絵を勉強して、しかも仕事にしているような人ならともかく、マイナージャンルで、しかも完璧素人文章で個人誌って、身の程知れよって、恥さらすだけのような…
まあ、印刷代さえ払えば、今10冊くらいからつくれるそうですからね。
でも一冊あたりの単価が笑えない金額になって、誰も買わないと思いますがw

べる (02/26 08:40) 編集・削除

ご予算お見積もり〜(爆)
https://www.starbooks.jp/form/ondemandnovels/form_ondemandnovels.php

Jeri (02/26 10:00) 編集・削除

>べるさん
試しにハーレクインを記念に本にすると仮定して、試算してみたんですが、意外に安いわ。
だって、このままいくと300P越えるしw
あら、20冊くらいなら刷ってもいいかもとか思っちゃったわよw
ただし、一番の問題は、私がオンデマンド編集とやらができないんですわ。
なんせむかし、普通に紙に印刷したのを印刷屋さんの専用原稿用紙に、1頁つづぺたぺた貼り付けていくよいうアナログなことしかやったことがなかったんで。

「あれ」のせいだ!(ハーレクインもどき番外編・ロイエンタール追悼SS)

 宇宙港の高官用待合室で、聴くともなしに聴こえてくる同僚達の会話。
 中心にいるのは、新婚のファーレンハイトと、義弟となったビッテンフェルトの二人だった。
 この日、彼等より少し離れた椅子に座り、ロイエンタールはなぜか不機嫌そうだった。
 くそっ、なんで俺ばかりが・・・
 声に出せない不満を、彼は自分の携帯端末に病院から送信されてきた電子冊子にぶつけた。
『妊娠初期の夫婦生活について』
『若年性妊娠のリスクと心得』
 非科学的な要素が強かったこれまでの帝国の産科医療を改め、いち早くフェザーンの先進医療を取り入れた帝立病院の啓蒙活動の一環らしい。
 と言えば尤もらしく聞こえるが、要は、「妊娠初期は、あっちの方は控えめにしましょうね」ということに他ならない。
 せっかく全てを委ねる気持ちになった女と結婚したばかりというのに、僅か新婚2ヶ月でのこの仕打ちは、あまりに理不尽だとロイエンタールは感じていた。
 元はと言えば、文字通り自分で撒いた種なのだが・・・・
「それにしても、ビッテンフェルト閣下も隅に置けない」
「ご結婚は、来年あたりですか?」
 という声は、黒色槍騎兵艦隊の幕僚達か。
「本当に、いったい何時からのお付き合いなんですか?」
 どうやら、噂の工部尚書秘書官との仲を取り沙汰されているらしい。
 今回の出立は、出征ではなく移動であることもあり、待合所は下級兵士用の一般部屋から、将官クラスの部屋まで、雰囲気は和やかだった。
「いや、それほど長くはない。まだ1年半くらいかな」
 照れながら答えるビッテンフェルトも、まんざらでもない様子だ。
 ロイエンタールは、その声に、急にムカッと怒りが湧き上がった。
『あいつ、1年以上もやってたのかっ!』
 ロイエンタールの中では、もはや自身の漁色など、百年も前のことになってしまってるようだ。
「ファーレンハイト閣下もご存知だったのですか?」
 今度は先日結婚が明かされたファーレンハイトに水が向けられた。
『そうだ。こいつ等なんか10年以上もいい思いをしてやがったんだ!』
 ロイエンタールの脳裏に、オレンジ色の髪の軍医中佐のスレンダーなボディが浮かんだ。
 士官学校の同期でもある彼等は、既に知り合ってから15年以上の歳月が経っている。

『くそっ! 俺なんか、あの女とまだ2ヶ月しか楽しんでいないのに・・・!』

 楽しんでるのは、あんただけでしょと突っ込みを入れる人間がいないのを幸いに、ロイエンタールの身勝手な煩悩は果てしなく続く。
 いったい、なんで俺だけがこんな目に遭わなければならんのか?
 あの女には、まだまだ教えることが山ほどあるのに。まだやりたいことや、予定していたことがいっぱいあるのに。最近やっと慣れてきて、これからという時に、何でよりによって自分だけに、妊娠などという不慮が襲ってくるのか!?
 ぞっこん惚れてる幼妻の懐妊を、不幸とまでは思わないでも、心から祝福する心境にはまだ程遠いロイエンタールだった。
 それにしても、なぜ、任官以来これだけ多くの時間を宇宙空間で過していた自分に、こんなに簡単に子供が出来てしまうのか?
 そうだ。『あれ』に違いない。 
 思考した末、ロイエンタールが思い至ったのは、新婚旅行先の重力制御ルームだった。
 ヴァルブルクリゾートの、最上級コテージの目玉であるあの部屋で、面白がって何度も怖がる幼妻を逆さにした。『あれ』のせいに違いない。
 ロイエンタールは、すっと立ち上がると、典雅な足取りで、二人の僚友に近づいていった。
 他の将官達は、元帥に遠慮して、さっとその場を離れる。
 社交辞令のように、年齢半分の若妻との仲を冷やかしにかかる僚友達に、ロイエンタールは、陛下の温情で新婚旅行に行かせてもらったことが、付き合いの短い2人の仲を急速に縮めたと、彼にしてはまともなことを語った。
「まあ、これもフェザーン人の飽くなき快楽追及の成果というべきか」
 帝国軍一の漁色家が、意味深に金銀妖瞳の視線を流すと、ビッテンフェルトのごくりと唾を飲み込む音が聴こえてきそうだった。
 義弟より沈着冷静なはずのフェーレンハイトでさえ、水色の瞳を僅かに見開いて、興味を隠し切れない様子だ。
 ロイエンタールは、その反応に満足すると、
「ヴァルブルクリゾートは、近々にフェザーンにも進出するらしい。まあ、フェザーンから見れば逆輸入の形だが、あの施設は一生に一度は体験する価値のある代物だぞ。特に卿等のような相手のいる男には、な」
 と言い放って鮮やかに身を翻す。
『ふん、お前らも早々に孕ませて、甘い生活なんぞ終われ。一蓮托生だ』
 期待に胸を膨らませている僚友達を背に、ロイエンタールは毒づいた。
 トラウマを克服しても、オスカー・フォン・ロイエンタールは、まだまだお子ちゃまだった。

Ende

********************
どこが「追悼」なんじゃ?というお話でした。
このネタは、先日ゆうやんさんから頂いたメールで、重力制御室ファー様とビッテン篇で、「口の重そうなロイが、なぜ2人にヴァルブルグリゾートのことを話したか(薦めたか、って書かれてないですがw)」ということから、ゆうやんさんの妄想をそのまま頂いて書きました。
昨日まですっかり忘れてましたが、今日は、ロイエンタールのご命日だったんですね。
ゆうやんさんと、ご訪問下さっている全ての方々に感謝致します。

コメント一覧

エルダ (12/17 14:24) 編集・削除

>妊娠初期は、あっちの方は控えめに

みっちゃんに子供が出来ないのは労災説もあったけど、こっちの可能性も少なくはないですね。
GB王朝の寵姫たちが無事出産したケースが少ないのもこのせい?

ロイの思惑通りになったとしても、ビッテンやファーがお預け生活もそれなりに楽しんでいたらまたむくれるんでしょうなw
これを機会にゴムつけることを覚えるのか、学習能力ゼロ通り越してマイナスのお猿さんで終わるのか、ロイの未来はどっち?

Jeri Eメール URL (12/17 20:04) 編集・削除

>エルダさん
私は、学習能力なしの方に賭けますw
なんか、ロイに限らず帝国の男ってみんなゴム嫌いそうだしorz

非公開 (12/17 23:05) 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

Jeri Eメール URL (12/18 12:10) 編集・削除

>WHO推奨の出産適齢期
本当は、人間の女性の完全な性的成熟期は、人種や環境で個人差があるものの平均22、3歳だそうですので、24、5が理想的というのは当ってますね。
その点、ヒルダたんは、ぴったしだったのかも。
15歳以上というのは、多分、発展途上国などで12歳くらいで結婚させられて即妊娠みたいな現実が多いからでしょうね。

>いつかロイエルを書くとき
確率低くてもやっぱり期待しちゃいます。

あ、ちなみに、うちのママンは、来年早々に70歳になります。
大学出た年にすぐに結婚して兄と私を立て続けに産んだので、もしかしたら私達世代の親の年齢としては少し若いかも。
でも、あの時代って、「クリスマスケーキ」なんて言葉ができるよりもっと昔で、女は20代前半の結婚が主流だったみたいなので、特に若いママと感じたことはなかったんですが、40代出産も珍しくない今の時代なら充分ヤンママの部類かも。

幻月夜(オベ閣下SS)

「あれは雌だったのか?」
 謹厳実直な執事ラーベナルトの報告に、主人の義眼が僅かに光を放って揺らめいた。
「はい。それで、高齢犬でもありますし、譲渡するにしても、健康診断も兼ねて3日ほどの入院を勧められておりますが、いかがいたしましょうか?」
 忠実な老執事は、先代から仕える主人の意向を確認する。
「うむ。どうせ譲渡先など見つかるまい。跳躍(ワープ)に耐えられるなら、あれもフェザーンへ連れていこう。縁あって私の犬になったのだ。最期まで面倒は見なければなるまい。戻り次第渡航の手続きをするように」
「かしこまりました」
 感情を殺した事務的で冷たく聴こえる声に、ラーベナルトは、彼にしか読み取れない主人の心を察して、深く一礼した。


 オーベルシュタインが、突然自邸に草臥れたダルマチアンの老犬を連れ帰ったのは、今から2年程前、まだ旧王朝の末期で、彼がローエングラム元帥府の総参謀長だった頃だ。
「そうか、私の犬に見えるか」
 その一言で、総参謀長の扶養家族となった老犬は、以来、オーベルシュタイン家で柔らかく煮た鶏肉を食べさせてもらい、下働きの使用人達に定期的なシャンプーとブラッシングを施してもらうにつけ、徐々に毛艶もよくなり元気を取り戻していった。
 ただし、格別可愛がられていたというわけではなく、その証拠に、元々ペットを飼う習慣などなかったこの邸の人々から、かの犬は名前もつけてもらえず、ただ「あの犬」とだけ呼ばれていたのだった。
 そんな生活が2年にもなろうかという日、世は王朝交代の激動を経て、来るべきフェザーン遷都を見据えた大本営移転の布告がなされた。
 新王朝の軍務尚書となったこの邸の主人も、使用人共々フェザーンへ移住することになる。
 それが決まった時、さて、「あの犬」をどうするべきか?ということになった。
 そこで、連れて行くにしろ、残して別の飼い主に譲渡するにしろ、一度獣医の検査を受けさせることになった。
 老犬故、フェザーンへ一緒に連れて行くとしても、跳躍(ワープ)に耐えられる体力があるかどうかの判断も必要になる。
 早速、ラーベナルトの指示で、下男の一人が近くの動物病院に連れて行った。
 診察の結果、犬は思った程の高齢ではなく、獣医の診断では恐らく10歳前後だろうとのことで、健康上恒星間航行にも支障はないとのことだった。
 ただし、元々あまり良心的でないブリーダーに飼われていた台牝らしく、避妊措置がされていないので、この機会に子宮と卵巣を全摘出する避妊手術を強く勧められた。
 実年齢より老けて見えるのも、何日も彷徨っていた所為もあったのだろうが、何度も無理な出産を繰り返したことが大きいとの獣医の診立てだった。
 リップシュッタット戦役時、取る物も取り合えず急遽オーディンを脱出した門閥貴族達は、狩猟用やペットとして飼っていた犬達を置き去りにしていった。その犬達が犬舎を抜け出し、野犬化したことが、つい先日まで社会問題化していたが、このダルマチアンも、そんなどこかの貴族の犬舎から抜け出した一匹だろうと思われていた。
 だが、この犬が雌だということは、直接世話をしている下働き以外、主人である当のオーベルシュタインも、一日中邸で一緒に過すラーベナルトも知らなかった。性別などに関心がなかったというのが本当のところかもしれない。
 ただ、擬人化して考えると、漠然と枯れた老人のような印象を持っていたオーベルシュタインにも、雌犬という事実は意外だったらしく、先のラーベナルトへの問いかけとなったわけである。
 人に例えるなら、老爺ではなく、然しもの中年女といったところか。
『雄でも雌でも関係ない。間もなくその生を終えようとしていることに変わりはないからな。あの犬の最期の時間が出来る限り快適なものであればそれでいい。どうせもう、誰にも必要とされず、誰からも愛されることのない一生だったのだから。そして、私は、そんなお前に感謝されることもなく、お前よりも早くヴァルハラに旅立つかもしれんのだ。誰にも惜しまれずな。それが、私の選んだ人生。お前はそんな私の最後の家族に相応しいのかもしれん』
 オーベルシュタインは、そう心の中で、自分の犬に語りかけた。
 無論、応えはない。
 ラーベナルトは、主人の決定を忠実に獣医に伝えると、今日から入院させ、手術の為の一通りの検査をし、明日の午前中に行うということで決まった。
 手術自体は簡単なもので、1時間もかからないらしいが、術後のケアの為、1日入院して様子を見、退院して一週間後に抜糸する為に通院することになった。
 この日は、9月5日。大本営移転の為、皇帝の本体が進発するのは17日である。
 本来なら、軍務尚書たるオーベルシュタインが、私事、しかも飼い犬の件など考えている時間も惜しいはずの忙しさのはずだが、なぜか、この冷徹な軍務尚書が、2年間共に暮らした犬のことに関して、執事任せにせず、自ら決定を下しているのは、彼を知る同僚や部下が知れば、さぞ驚くことであろう。


 オーベルシュタイン家の名もないダルマチアンが、動物病院へ搬送された日、邸の主は、珍しくスムーズに片付いた仕事を切りのいいところで終わらせ、早めに帰宅した。
 現在、帝国軍三長官と呼ばれる三元帥の内、ミッターマイヤーは、去る8月30日に先行してフェザーンへ進発しており、ロイエンタールの方は、皇帝の代理視察の公務を兼ねて、若い妻と新婚旅行中である。
 別に羨ましいとは思わない。
 あの金銀妖瞳を除けば、全てが優性遺伝子の集合体のような男が、それに相応しい女を得て子孫を残す社会的行動に出ただけのことである。
 優秀なDNAを持つ子孫を残すという、自分の如き不具者にはできないことをするのだ。人類社会にとっての貢献度と言う点では、測り知れないではないか。
 とうの昔に諦めた自身の人生と鑑みて、創造主の不条理を嘆いても仕方の無いことだと、オーベルシュタインは達観している。


 首都星最大の衛星が、青く大きな円形となって西の空に上がる。
 こんな夜は、人々を異界に誘うと、古より言い伝えられていた。

「パウルさま・・・パウルさま・・・」
 夜半、低い女の声で目が覚めた。
 これは夢だ。
 オーベルシュタインは、すぐにそう思った。
 いかにその地位に比して簡素とはいえ、仮にも帝国元帥の自邸である。部外者がこのような時間に主の寝室に入れるわけがない。
 半分眠りの淵にありながらも、オーベルシュタインの冷徹な頭脳はそう結論付けた。
「パウルさま・・・」
 再び聴こえた声は、より近く、彼の寝台の裾にぼうっと白い影が映った。
 オーベルシュタインは、思わず上体を起こす。
 これは夢だ。だから本当の自分の身は寝台に臥しているはずなのだ・・・
 夢とすれば、これは自分の潜在意識が見せるもののはずだ。
 今一番気に掛かっているのは、産声を上げたばかりの新帝国の基盤を磐石にすること。それ以外有り得ない。
 しかし、なぜ、このような時にこんな夢を見る?
 自分は一体、何を気に掛け、何を欲しているというのか?
「誰だ?」
 遂にオーベルシュタインは、声の主に尋ねた。
 途端、白い影はくっきりと形を成し、シーツ一枚纏っただけの細い女の裸体を浮かび上がらせた。
「あなた様をお慕いしている者です。・・・どうか、今宵一夜のお情けを賜りたく、こうして、恥を忍んでやって参りました・・・」
 ばかな・・・!
 と、オーベルシュタインは自らに舌打ちする。
 自分はとうの昔に、そのような煩悩を絶ったはずではないか。
 それなのに、このような夢を見るとは、我ながら情けない。
「生憎だが、私にはお前の期待に応えてやることはできない。早々に立ち去るがよい」
 傷ついた矜持を隠すように、常よりも更に冷たい口調で言い放つ。
 しかし、女は去ろうとしない。
 よく見ると、その身体つきは、既に若くはない、中年と言って差し支えない年齢に見える。顔は伏せられていてはっきりとは見えないが、背の高い痩せぎすの女で、およそ性的魅力には乏しい。
 だが、オーベルシュタインには、なぜかこの女が、自分には似合いのように思えた。若く瑞々しい肢体は、逆に彼を萎えさせる。そんな女は、皇帝か他の若い幕僚連中が相手にしていればいいのだ。
「来るがいい」
 どうせ夢なのだ。ならば、今宵限り、煩悩に身を委ねてもよかろう。
「パウル様・・・!」
 初めてこちらを向いた女の顔は、暗がりでも年齢相応の皺が目立ったが、意外に美しかった。
 ゆっくりと寝台に近づくと、纏っていたシーツを落とし、恥じらいながらそっと顔を背ける。
 細面で、つぶらな瞳が、どこかで見た気がしたが思い出せない。
 だが、肉が削げ落ちた肩や胸は、とうの昔に盛りを過ぎたことを隠しようがなかった。
 オーベルシュタインは、黙って体を少しずらし、無言で女に寝台に入るように促した。
「名は?」
 無表情で訊ねる男に、女は少し悲しげに俯いた。
「ございません・・・」
「そうか」
 オーベルシュタインは、それ以上何も言わなかった。聞かれたくないものと判断したのか、最初からどうでもいいと思っていたのか。
「言っておくが、私にはお前を満足させることはできないであろう。それでもよいか?」 
 向き合った義眼が、僅かに光を放つ。
 女は、感激の涙を湛えながら首を振った。
「そんな・・・私は、こうしていて下さるだけで幸せなのです。最後の夜に、あなた様とこうしていられるだけで・・・」
「最後?」
「・・・もうすぐ、女ではなくなりますの・・・」
 その言葉の意味が理解できず、怪訝な表情を作る間もなく、女はいきなり彼の下半身に手を伸ばした。
「私に、あなた様をお慰めさせて下さい」
 そう言うと、女は瞬時にオーベルシュタインの下穿きを剥ぎ取り、彼自身を愛しそうに両掌で包んだ。
 女の少しざらついた舌の感触が、かつて感じたことのない快楽へと導く。
 オーベルシュタインは、自分でも驚くほど早く達してしまうと、女は躊躇うことなく彼の放出したものを飲み干した。
 女は更に巧みな舌使いでオーベルシュタインを蘇らせると、今度は自分が彼に跨り、腰を落として自身の内部に彼を納めた。
 律動的な腰の動きに、オーベルシュタインは、もう何年も忘れていた自分の中の“男”を掻き立てられる。
 盛りを過ぎた女は、決して先を急がない。
 ゆっくりと、温かく、男が高まるのを待つ。
 やがて、蒼い満月の光が閉じられたカーテンの隙間から差し込んだ時、オーベルシュタインは、かつてない恍惚感の中で、そのまま深い眠りに陥った。


 初秋の陽光が、射し込む朝、目覚めたオーベルシュタインは、昨夜の夢の感触が、まだ確かに肌に残っているのを感じた。
『この私ともあろうものが・・・』
 薄っすらと額に浮いた汗を拭いながら自嘲する。
『結局、この私もただの俗物に過ぎなかったということか・・・』
 昨夜の出来事は、自分の潜在的願望が見せた夢だ。そう確信する彼にとって、己の弱さを自覚させられる苦くも甘美な夢だった。
 ふと、身体を起こすと、シーツの上に、白と黒の短い毛が何本か落ちている。
 オーベルシュタインは、怪訝に思いながらも、深く追求せず、いつも通り容儀を整えると出仕していった。


 翌日、彼が普段通り帰宅すると、あの犬が動物病院から戻っていた。
 手術の経過も良好で、フェザーンへの航行にも問題ないとの獣医師の診断を執事が伝えた。
 オーベルシュタインは、軽く頷いて気まぐれに犬に手をやると、犬が珍しく彼の左手を舐めた。
 その感触に、確かな覚えがあり、オーベルシュタインは、暫し愕然とする。
 犬は、また何事もなかったかのように、いつものように床に伏せて眠り始める。
『そうか・・・』
 オーベルシュタインは、一人納得したように犬を見た。
 執事のラーベナルトには、その目が、何時になく優しげで、少し笑っているように見えた。

Ende

コメント一覧

非公開 (09/21 07:30) 編集・削除

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べる@携帯 (09/21 10:42) 編集・削除

ふおおお。
萌え〜。
このSS、若者には決して描けまいよ…。
オベさんのコンプレックスの独白、い〜わ〜。
旦那にするならこの男だわ…。

Jeri Eメール URL (09/21 12:33) 編集・削除

>べる@携帯さん
>若者には決して描けまいよ
はい。私もそう思いますw
なんつーか、最近、二次創作読んでても、書き手の方の年代がなんとなくわかってしまうんですよね。
あ、この方はきっと私と同年代(前後2~3歳くらいの年齢の範囲内)だわとか、この人ってとっても若いんだろうなとかねw

>旦那にするならこの男
ええ、私も結婚相手としてオベ様一押しです。
オベ様は、あの戦争愛好家集団の中で唯一大人の男だと思っとります。
ハーレクインのエルちゃんの年齢設定、実は「あんたの精神年齢ってこのくらいでしょ?」というロイに対するメッセージだったりする。

葵猫 (09/21 21:24) 編集・削除

こんばんは、読ませていただきました。
正直最初にシチュエーションを拝見したときには「え~、犬の恩返し?」と思ったのですが、感動しました。
確かに普通に異性と一夜を共に、というのは想像し辛いものがありますからね、オベ様。
正直あれだけの理性と知性、目に障害があっても充分優秀だとかねがね思ってました、私。
で、そのオベ様からみても、ヘテロクロミアを別にして優秀な遺伝子、なんですねやはり。
ちなみにwikiのヘテロクロミアの有名人の項目に、アレクサンドロス大王、デヴィッド・ボウイ(事故で後天的にだそうで驚きました)、奥菜恵などに交じって、オスカー・フォン・ロイエンタールの名が。
凄いですよね、なんだか。

Jeri Eメール URL (09/21 22:44) 編集・削除

>葵猫さん
か、感動ですか?
そんなまともに読んで下さるなんて感激です。
それにしても、ロイのヘテロクロミアって、もうリアル社会でも認知されてるってことなんですね。
驚きましたっ!

Ace (09/22 22:17) 編集・削除

 ちょっと意地悪とは思いますが「優性遺伝子」が間違ってるのではないでしょうか。優性は優秀な、ではなく劣勢に比べて発現しやすいというだけのことのはずです。

 ケチをつけましたがオーベルシュタインの夜の営みとは珍しいですね。これは子供は読んじゃイケませんなwしかし行為が唐突すぎる気がしますが。犬の霊?なんですかね・・・獣姦でしょうか

Jeri Eメール URL (09/22 22:35) 編集・削除

>Ace様
ご指摘ありがとうございます。
優性遺伝=優秀ではないことは知っていました。
身長が高い(優性)、低い(劣勢)
目の色が黒(優性)、青(劣勢)
髪の色が黒(優性)、金髪(劣勢)
二重瞼(優性)、一重瞼(劣勢)
とかいう話を聞いたことがあります。
正しくは、「あの優秀な遺伝子の集合体のような男が」と書くべきでしたね。
行動が唐突なのは、まあ、SSだし犬だしってことで勘弁してやって下さい。

りっく (09/23 12:49) 編集・削除

「あれは雌だったのか?」
この作品の最大のインパクトですね。
犬=雄という連想がたいてい働きますもんね。

犬の10歳って人間でいう40歳くらいでしょうか。

種族の問題を除けて考えれば、
遺伝子ゆえに性を強要され続けた女と、
遺伝子ゆえに性を諦めた男のつかの間の一夜、ということになりますか。

重篤な遺伝病はともかく、何が「優秀な性質」かはその時々の環境によってかわるので、定義はしにくいものだろうとは思いますね。
ペットや家畜なんかは、野生では不利な性質が珍重されて伸ばされてる種類が多いと思いますし。

ちなみに私はオベさんは「そういうこと」が「できない」体の可能性もあると思ってます(外的要因でそうされた可能性ということで。なんにしてもひでえ考え(爆))

>然しもの
これを「しかしもの」と読んでしまい、頭をしばらくひねってました。「さしもの」なんですね。しっかりしろ文学科卒(笑)

あとハーレクインのほうへのお返事のお返事。
>フレーデリケを連れ出さなかったのは、ブラウンシュバイク縁者だったから、出さない方が都合が良かった

こっちのほうの理由でしたか。両方考えてはいたんですが、あえて好意的な読みの方を出しときました。(負け惜しみ)
では、失礼します。

Jeri Eメール URL (09/23 20:11) 編集・削除

>りっくさん
>犬の10歳って人間でいう40歳くらいでしょうか。

私もそのつもりで書いたんですが、↓なページを見つけてしまいましたw
http://www.senior-dog.com/age.html

ダルメシアンは、大型犬に分類されるらしいですが、中型犬として分類されることもあるそう。
いずれにしても、論外な結果ですな。
いや、今時の75歳なんて若い!
56歳なんてまだまだ現役って、ポジティブに考えられないこともないw

それにしても、こんなしょうもないもんに、真面目な感想を頂けて恐縮です。

非公開 (09/24 08:11) 編集・削除

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志望動機 -銀河帝国お受験事情- (ファー様SS)

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 アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト(15)は、今年、公立中等学校を卒業し、私立の超難関高等学校を受験すべく、日夜勉強に励んでいた。
 目指すはオーディン都内で通称「御三家」と呼ばれるA学園、B学院、C学園のいずれかである。目指す理由は、これら3校からの、帝国最高学府オーディン帝国大学への進学率が極めて高いことにあった。
 彼は、将来、オーディン帝国大学の法学部に入学し、官僚となって栄達するか、実業界で活躍することを目指していた。しかも、帝大生になれば、通常の兵役が免除されるばかりか、仮に徴兵されても、前線には行かず、尉官待遇での後方勤務が約束されていた。
 志した理由は勿論、『貧乏からの脱出』である。
 下級貴族であるファーレンハイト家は、貴族とは名ばかりの平民並み・・いや、下手すると平民以下の貧乏一家だった。
 父親は、私立大学の教授で、古生物学の権威と言えば聞こえはいいが、全く金にならないマニアックな学問を続ける為、元々少ない財産の殆どを研究に費やしてしまっていた。
 加えて、なぜか次々と生まれる弟妹達の為、生活は困窮し、まさに「貧乏人の子沢山」を絵に描いたような家族だった。
 元々は、郊外の築100年近いボロ屋敷に住んでいたのだが、雨漏りの修理もできないようになり、仕方なく母親の実家の離れに身を寄せたのは、アーダルベルトが10歳の時だった。
 母の実家は、あまり裕福とは言えない非主流派の貴族だったが、一応子爵号を持っている門閥貴族の端くれだった。
 ファーレンハイトの母はこの家の三女で、書生をしていた父と周囲の反対を押し切って結婚したという。
 馴れ初めは、子爵令嬢の方からの一目惚れだった。
 そう、ファーレンハイトの父は、甲斐性はなかったが、プラチナブロンドの髪に水色の瞳を持つ美形で、その遺伝子は、息子にも確実に受け継がれていた。しかし、息子が父から受け継いだのは容姿だけで、金に無頓着な浮世離れした気質とは正反対の子供に育っていった。
「俺はオヤジのような人生はイヤだ!! ちゃんと金を稼げる職に就くぞ!!」
 ファーレンハイトは、子供心に切実にそう思うようになり、弱冠10歳にして、自分達の住む離れの小さな居間に、『節約・実用』と書いた額縁を自ら飾った。
 ともあれ、権門とは程遠いものの「腐っても子爵」だけあって、ファーレンハイト家は、母方の祖父に家族ごと世話になることで、何とか食い繋いでいた。その祖父も、一昨年亡くなり、代替わりした家で、一家は益々肩身の狭い思いをしながら暮らしていた。
 そんな環境の中、幸いにもアーダルベルトは、初等教育過程でも中等学校でも非凡な優秀さを示し、将来のオーディン帝国大学入学を周囲から期待されていた。
 とは言え、オーディン帝国大学の難しさは並大抵のことではなかった。まず、受験科目が5教科10科目と多い上に、二次試験は全て記述式で、選択問題の山勘は通用しない。しかも、1科目ごとが超難問揃いで、並みの受験生には、問題の意味すら理解するのが困難な程の難易度だった。
 俗に、「広く浅く、若しくは、狭く深く」という言葉があるが、オーディン帝国大学受験には、広く深い受験ヲタク的知識が要求されるのだ。
 その為、この大学へ合格するのは、早期英才教育が必要とされ、入学者の殆どが子供の頃から家庭教師についたり、専門の校外学級(早い話が塾)に通ったりして元々賢い上に更に知力に磨きをかけていた。
 そうした俊英揃いの中で競われる受験競争は熾烈を極めていたが、まずは、下準備として、前述の3校に入るのが、合格への最短距離だと言われていた。
 アーダルベルトは、いくつかの模試を受験し、3校とも充分合格圏内であることがわかって、「我が校の卒業生から帝大生が」と、中等学校の教師達を期待させた。
 貧乏な為、同じ目標の他の受験生のように、家庭教師も月謝の高い塾にも行かずにこの結果なのは、ひとえに彼の生来の能力の高さを示していた。
 そんな順調な受験生生活を送っていたアーダルベルトに、ある日、両親が衝撃の事実を伝えた。
「すまん、アル。うちには、子供達全員を私立へ行かせてやれるだけの余裕がないのだ」
 父が面目なさげな表情で詫びた。
「本当に、ごめんなさい。あなたには、悪いけど、学費の安い公立高等学校に行ってもらって、そこから帝大に入って欲しいのよ」
 元令嬢の母が、哀願するポーズをとる。
 アーダルベルトは、何が何だかわけが解らなくなり、呆然と両親を見詰めた。
 いったいこの1年間、俺がどれ程苦労して独学でここまでやってきたと思ってるんだ、この親達は!!
 確かに、公立校から帝大に入ることができないわけではないが、長年培った受験のノウハウや、一緒に学ぶ学生の質等が、御三家とは比べ物にならない。同じレベルのたくさんの優秀な生徒達と切磋琢磨しながら学力をつけていくことが、より合格を確実にすることは考えるまでもない。だいたい、学校自体が受験対策を積極的に行わない公立に入れば、必然的に予備校に通うことになり、金がかかるのは同じだ。また2年間独学で学ぶとなると、この時期に入っては、流石に苦しい。
 暫しの沈黙の後、少し冷静さを取り戻したアーダルベルトは、両親に怒りをぶつけた。
「今更進路変更なんてできないよ。第一、妹達は皆貴族女学院に通っているじゃないかっ! なんで俺ばかりが犠牲にならなきゃならないんだよ!」
「仕方ないのよ。女の子だから。このまま無試験で高等科まで進めるのに、妹達に女学院を退学させるわけにいかないでしょ? あなたは兄なんだし、優秀なのだから、妹達の為に我慢して頂戴」
 貴族育ちの母親は、軽く言ってくれる。
 アーダルベルトは、6人兄弟姉妹の第一子長男で、彼の下に3人の妹がいて、その下にまだよちよち歩きの弟、一番末に去年生まれたばかりの妹がいた。
 無制限貧乏のくせに、よくもまあ、これだけ子供を作ったものである。
 ファーレンハイト家の娘達3人は、門閥貴族の子女のみが入学を許されている、帝国最高のお嬢様学校、オーディン貴族女学院にキンダーガルデンから通っていた。
 子供だったアーダルベルトは、今までそのことを特に不思議に思わなかったが、今言われてみると、明らかに分不相応な贅沢だ。
 この学校は、学費がべらぼうに高い上、寄付と称して事実上強制的に、毎年一般庶民の数か月分の賃金に相当する金額を別途要求することでも有名だった。第一、爵位のある貴族の娘しか入れないはずの学校に、なぜうちのような貧乏下級貴族の娘が3人も揃って行ってるんだ?
 その疑問には、母親が、実家の子爵家の養女分として入学を申請したことを説明した。腐っても子爵令嬢だっただけに、彼女自身もその母親も、その又母親も、この学院の卒業生だった。狭い貴族社会で、元々縁故入学が多い為、親が卒業生だと有利に働き、貧乏は問題にされることなく、あっさり入園を許可されたらしい。
 また、通わせた一番の理由は、女学院とファーレンハイト家の地理的関係だった。
 腐っても子爵のファーレンハイトの母の実家は、新無憂宮に近い帝都の一等地にあり、敷地の東側に、貴族女学院の敷地が隣接している。早い話が「お隣さん」なのだ。
 妹達は、母も祖母も通った徒歩5分の隣にある学校へ、当たり前のように入ったという感覚だった。
 それでも、妹達が学院内でずば抜けて成績がいいとでもいうなら、自分も犠牲になる気が起きないでもないが、彼女達の成績は誰も中の下程度で、そのことにもアーダルベルトは理不尽を感じた。自分がこのレベルの学校にいれば、開校以来の秀才だろう。
「そう言っても、妹達自身はどうなんです? 周りのクラスメイトは全員領民から搾取した金で潤ってる門閥貴族の娘ばかりでしょ? そんな中であいつらが、肩身の狭い思いをしてはいませんか?」
 この件に関しては、アーダルベルトは、心底妹達を心配して問うた。
 まさか、貧乏人の子と、苛められてたりしないだろうか、気になった。
「ああ、それなら大丈夫よ。お金持ちの子ばかりの学校で、一人だけ貧乏って立場の子が、今はヒロインなんですって」
「はあ?」
 無邪気に答える母に、アーダルベルトは、脱力していた。最早何をかいわんやである。
「まあ、現実問題として無理なものは無理だから仕方ないのだよ」
 父親がそう言って、この数年間の家計簿を見せてくれた。
「なんじゃこりゃ?」
 それを見たアーダルベルトは、あまりの内容に、彼の姿に似つかわしくない素っ頓狂な声を上げた。
 妹達3人の学費が、オヤジの年収を遥かに超えているのだ。
「こんな収支ってありか!?」
 15歳にして、すっかり金勘定が身についてしまったアーダルベルトは、電子家計簿の欄を指差して、父親を問い詰めた。
「学費や寄付金が必要な時は、その都度家にあるものを売ったり、それでも足りない時は、恥を忍んでお義父上に出してもらったりして、今日までやってきたのだよ。だが、もう限界に来ている。だから、これ以上、お前にお金をかけてやることが出来ないのだ。本当にすまん、アル。不甲斐無い父を許してくれ」
 最後はしゅんとして息子に頭を下げる父に、アーダルベルトもそれ以上責める気になれなかった。


 数日後、意気消沈して勉強を投げ出したアーダルベルトの元に、一番上の妹が、何かの資料を持って嬉々としてやってきた。
「アル兄様、聞いて。士官学校って、入学金も学費もタダなんですってよ。おまけに、入学後、毎月給料ももらえるんですって」
「まあ、なんて素晴らしいんでしょう」
 長年の貧乏が染み付いて“タダ”と“無料”という言葉に無条件に反応してしまう母親が、耳聡く話を聞きつけ興味を示して会話に割り込んできた。
「でしょう? おまけに全寮制だから、食費もかからないのよ。これでだいぶ我が家のエンゲル係数も下がるわ」
 冗談じゃない! 俺はこれでも遠慮して食べてるんだぞ!
 ファーレンハイトは、叫び出しそうになったが、ショック状態が続いていた為、その気力もなかった。
「そうか、その手があったんだ。アル、士官学校を出れば、上手くすれば少佐や大佐にもなれるし、そうなったら、私より高給取りだぞ。しかも、年功序列の官界や経済界とも違い、武勲を立てれば若くして将官も夢じゃない。いいぞ、いいぞ、お前ならきっと『ファーレンハイト提督』と呼ばれるようになれる。うん、士官学校へ行け!」
 父までも大乗り気になってしまった。
「アルが、将官になってくれたら、我が家も安泰だわ。長年世話になった実家にも面目が立つし、来年の妹達の学費も借り易くなるわ」
「そうだな・・・正直、学費だけでなく、そろそろ生活して行くこと自体も苦しいのだよ。アル、私達が食べていかれるよう、ここは不本意だろうが、士官学校へ行ってくれ。頼む」
 普段浮世離れして、飄々としていた父親にまでそう言われて、ファーレンハイトも流石に気持ちが動いた。
 どうせ頑張って合格したところで、入学できないのなら、志望校は諦めるしかない。

 こうして、その年の春、アーダルベルトは、士官学校を受験したのである。
 帝大受験のカルト的問題と格闘していたアーダルベルトにとって、学科のみなら地方惑星の国立大学とそう変わらない難易度の士官学校のペーパー試験は、楽勝だった。
 不合格なら親も諦めがつくと思い、白紙提出やわざと間違えた答えを書くことも考えていたが、戦う男の性というべきか、目の前に問題を提示されると、それを征服せずにはいられなかった。
 結局、彼は終わった後、自己採点で多分満点に近い点をとれたことを確信して、学科試験を終えた。
 次に、軍人としての適正を判断される身体検査と身体能力テストだったが、こちらも元々健康で、体格にも運動能力にも恵まれた彼に不安材料はなかった。
 ここまでの段階で、恐らくトップ合格かそれに近い位置にいることは、間違いないと感じていた。
 そして、最終日は、いよいよ面接試験である。
 と言っても、これは本来、ボーダーラインにいる受験生を選別する為のもので、大概家柄のいい者が有利になる。
 学科、実技共に上位間違いなしのファーレンハイトにとっては、形式的なものになる・・はずであった。
 受験生が多い為、10名ほどが一組になり、急拵えの面接室に入ると、数名の面接官の前で、右端の受験生から順番に同じ質問に答えていく。
 質問内容は、いくつかのパターンから毎年チョイスされるもので、受験生は模範解答をその手の対策本などで、とっくに刷り込み済みだ。
「それでは、まず、受験番号と氏名、それと志望動機を言ってもらおうか」
 端に座る佐官らしき初老の面接官が、緊張する受験生達の見渡して言った。
「皇帝陛下の為、一命をとして、叛徒共を・・・」
「帝国の未来の礎となるべく・・・」
「この膠着した戦況を打開すべく捨石になる覚悟で・・・」
 受験生達は、それぞれ対策本に書いてある模範解答を無難に述べていく。
 そして、いよいよファーレンハイトの番になった。
 彼も無難に氏名と受験番号を述べる。
「それでは、君の志望動機は?」
 中央の責任者らしき面接官が訊く。
 ここで、ファーレンハイトは、また突如として、このまま模範解答をしてあっさり士官学校生になってしまうことに、蟠るものを覚えた。
 心にもない事を言って無難にやり過ごすなど、反骨精神旺盛な彼の性分に合わない。
 では、何と答えるべきか?
 その時、唐突に頭に浮かんだのは、受験を承諾した時の父の切なそうな言葉だった。
『私達が食べていかれるよう・・・』
 ファーレンハイトは、意を決すると、目の前の左官級から将官までの面接官に向って、堂々と言い放った。
「私が軍人になろうと思ったのは、食うためです
 一瞬、水を打ったような静けさが部屋を支配した。
 面接官達は暫く絶句した後、彼にはそれ以上の質問をせず、次の受験生への面接に移行していった。
『終わったな』
 ファーレンハイトは、さばさばして受験会場を後にした。
 不合格では、いくら親が望んだところで仕方が無い。彼が志望するA学園の受験日は一ヶ月後である。まだ間に合うし、親も何とか学費を工面してくれるかもしれない。自分が何かバイトでもしながら稼いだっていい。
 そんなことを思いながら、上機嫌で帰宅したファーレンハイトだった。
 だが、次の日に届いたのは、彼の予測を裏切る、紛れも無い合格通知だった。
 何度も見直して、確認するが、間違いない。
 いったい、どうなってんだ?
 いくらなんでも、あの面接で合格させるのか?
 帝国の士官学校って、いつからそんなリベラルになったんだ?
 動揺しても、もう仕方が無い、この帝国では士官学校生は、合格した瞬間から下士官待遇であり、任官を拒否できない決まりになっていた。
 彼はもう、腹をくくって軍人になるしか道はないのだ。
 ファーレンハイトが知らないところで、彼の組の面接終了後、面接官達はこんな会話を交わしていた。
「ありゃ、ダメですな。学科の成績はいいので、惜しい人材ですが、組織に入れれば問題児になるでしょう」
 そう言ったのは、副校長の座にある中将で、面接の責任者だった。
 他の面接官達も、次々に彼に同調する意見を述べる。
 普通なら、ファーレンハイトは、ここで不合格となるはずだった。
 しかし、この時、たまたま外部から出向で、臨時の面接官として加わっていた眠そうな目の准将の制服を着た中年の男が挙手した。
 学校関係者のみでは、どうしても人物判断が偏りがちになるということで、こうして艦隊勤務者や、軍官僚などの部外者を何名か面接官として派遣してもらうことになっているのである。
「私は、逆に、覇気があってなかなかよろしいと思うが。マニュアルで覚えた台詞のような答えしか返ってこない受験者に、正直失望を禁じえない。そんな中で、今時の若者としては、彼は珍しくハングリー精神というものを持っている。私は、彼のような人材こそ、これからの軍には必要になると思うが」
 その男がそう発言すると、途端に周囲の人間の反応が変わった。
「おお、メルカッツ提督が、そう言われるなら・・・」
「私も、メルカッツ提督に賛成いたします」
 彼、ウィバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツは、世渡り下手でその実績に比して出世が遅れている節があるものの、その天才的な用兵術に憧れる、一部信者とも言うべき熱狂的な崇拝者が軍内に多かった。
 そして、偶然にもこの時の面接官の大半が、彼の信奉者だったのである。
 
 こうして、「食うために軍人になった男・ファーレンハイト」の伝説は、長く銀河帝国の歴史に語り継がれることになったのである。

Ende

コメント一覧

べる (08/24 14:01) 編集・削除

笑った。
拍手!

Jeri (08/24 19:21) 編集・削除

ありがと。
初の銀英SSかも。

ゆうやん@復活 (08/24 22:37) 編集・削除

本日帰宅して読みました。
いや、つい貧乏と言うと暗い生活環境とか、荒れた両親とか涙とか想像してしまうんですが・・・いいですね~。浮世離れ貧乏ってのは!!
お腹が痛かったですwwww

Jeri Eメール URL (08/25 00:56) 編集・削除

ゆうやんさん
おかえりなさーい。
初めてファー様SSをアップできて嬉しいです。
今回のネタは、メイさんのところで、ちょっと前にお受験が話題になっていたので、殆どちょっと昔の日本な帝国お受験事情を捏造してみました。
ファー家のモデルは、私のよく知るご一家ですので、書きやすかったですww

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