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リセット-寂寞の皇后-(12)

ヒルダは、自分が愚かな道に入ってしまったことに気付いていた。
しかし、ここまできたらもう、後には引けなかった。
この政争は、恐らく内戦に発展するだろう。
その時、多少の犠牲はやむを得ないので、最終的にこちら側が勝利すればいい。
誤解から粛清してしまった元宮内尚書と元侍従長には気の毒だったが、数の上では小さな犠牲に過ぎない。
生粋の門閥貴族出身のヒルダは、基本的に自分が特別に思い入れのある人間以外は、全て数字で考える。
だから、ヴェスターラントの名もない200万人程度の犠牲は、ラインハルトの偉業に比べれば全く取るに足らない犠牲だと思っていた。
むしろ、そんな平民達の為に、あの美しい偉大な宇宙の覇者が、肩を落し自分を責めて酒を呷る程落ち込むことの方こそ間違っていると思っていた。
だがらこそ、彼女はこう言ってラインハルトを慰めたのだ。

「罪があり報いがあって、最後に成果が残ったのです」と。

ヴェスターラントの200万人の命は、ラインハルトがキルヒアイスというかけがえのない友を失うという罰を受けたことで免罪され、そのマイナス分は、彼の行った改革によって救われた多くの命によって「成果」となり、全体としてはプラスになっている。
皇帝とて神ではないのだから、できることに限界がある。
ならば、結果がプラスであるなら、ラインハルトの行為は間違っていないはずである。
常に遥か上から米粒のような市民を見て育ったヒルダには、それが正しい論理だった。
自分は、ラインハルト大帝と同じく、この銀河帝国全体の大局を見ているのだ。それが選ばれた人間の視点というものなのだ。
それを、あの女は、ただでさえ持病を持ち、お忙しい陛下に、いちいちそんなゴミのような平民の命まで考えてやれと余計なことを言って、陛下の心を掻き乱した。
無自覚に選民意識の塊であるヒルダにとっては、それがどうしてもゆるせなかった。
ヒルダの無意識に滲み出るそうした思想よりも、貴族とは名ばかりで、旧王朝では弱者の立場に生まれたラインハルトが、キル子の考えの方に共感したのは、自然のことであるし、何よりも選んだのはラインハルト自身である。
しかし、ヒルダには、ことラインハルトが絡む件に関しては、もうそれさえ分析できる正常な判断力を失ってしまっていた。
既に、先帝の僚友ともいうべきローエングラム王朝開闢の功臣達の殆どは、彼女に背を向けた。
しかし、ヒルダは、自分がまだ主要なカードの殆どを握っていると思っていた。
何よりも、先帝が次期皇帝に指名し、現在その地位にあるアレク帝を擁していること、また、親族マリーカの夫である憲兵総監ケスラー元帥が、帝都フェザーンを抑えていること、そして、内閣の大部分を自分の一族で占め、先帝の直営艦隊5万隻を有している点であった。
現在、大元帥及び元帥号を剥奪したかつての帝国軍の双璧に、ミュラー、ツッル等の艦隊、イゼルローンのワーレン艦隊は、完全に賊軍となったと見ていい。
最後まで旗色を伺っていたファーレンハイトやビッテンフェルト、メックリンガー、シュタインメッツ等も、今を以って参上しないところをみると、どうやらこちらも反乱軍側についたと思われる。
しかし、この15年の軍縮が幸いして、彼等が全て敵側になり、更に同盟軍が味方したとしても、先帝の遺産ともいうべき直営艦隊5万隻と、各地方星系に駐留する皇帝直属艦隊を合わせれば、10万隻以上になり、数の上での優位を確保できる。
無論、いかに数で勝っていようと、先日とりあえず正規軍の体裁を整える目的で元帥杖を授与したグリルパルツァー等が、双璧やヤンとまともに戦えるとはヒルダとて思っていなかった。
彼女は、無論士官学校出ではないが、その天才的な頭脳は、先帝の出征に同行して、何度かブリュンヒルトの艦橋で戦闘を直に見ているうちに、艦隊戦の指揮についての知識を瞬く間に吸収していった。
ヒルダがもし男に生まれ、士官学校出であったなら、ラインハルトや双璧に劣らない用兵家になっていたかもしれない。
ヒルダは、もし、この内戦が本格的な艦隊戦になれば、正規軍の総旗艦をブリュンヒルトとし、アレクを指揮シートに座らせて、実際には自分が指示を出す形で反乱軍を一隻残らず討伐するつもりだった。
無論、周囲を護衛艦隊で取り囲み、ブリュンヒルトには傷一つつけないつもりだ。
ブリュンヒルトの艦影と皇帝自らの出征というだけで、兵士達の士気は上がり、先帝陛下のご意思に背いた反逆者どもを討伐せよとアレクに言わせれば、一丸となって戦うはずである。
しかし、いかに数で勝っていようとも、素人の自分の指揮で、稀代の用兵家達を簡単に倒せないことくらいはわかっていた。
思いがけない昇進に舞い上がり、皇帝と摂政皇太后に絶対の忠誠を誓ったグリルパッルツァー達の実力を、ヒルダはそれほど信用していなかった。
正面からのみの戦いでは勝ち目はない。
ならば、裏ワザを使うしかない。
その為の布石を密かに打っておいた。
反乱軍の要となるのは、やはり彼等の担ぎ上げる神輿であるマクシミリアン皇子と、実践の上では、帝国軍の双璧と言われた二人、特にロイエンタールの方だろうとヒルダは見ていた。
また、イゼルローンを発ったはずのワーレン艦隊も、彼自身がいなければ大した動きはできない。
その内、駐留を命じられた在留部隊に密かに使者を送り、今降伏すれば、皇帝陛下の特別なお慈悲を以って、今回の件を不問に伏すと通告する。
彼等とて先帝の忠実な臣に違いないのだから、賊軍となることには元々抵抗があったはずである。
マクシミリアン皇子という大義名分を無くし、ロイエンタールとイゼローンさえ抑えてしまえば、後は数で勝り、現皇帝を擁しているこちらの勝利だとヒルダは読んでいた。
その為に、生かしておいた地球教徒の残党を、皇子の乗るミュラーの旗艦パーツィバルと、ロイエンタールのトリスタンとワーレンのサラマンドルに潜入させていた。
彼らは、先帝やヤンの命を狙った狂信者達ではなく、元々純粋に教義を信じていた末端の巡礼者達だった。
武装もしていなければ、サイオキシン麻薬にも関わっていない純粋に宗教として地球教を信仰していたに過ぎない者達に対して、ラインハルトも罰するつもりはなかった。
その寛大さが、身を潜めるように今でも細々と信仰を続けている彼等にとって、大変な恩義になっていたとしても不思議ではなかった。
ヒルダはそれを利用し、逆賊の神輿である皇子と、それを担ぎ上げて皇帝に叛逆しているロイエンタール、ワーレンを暗殺するよう密命を下した。
事が成った暁には、地球教に対して、国家的な保護・援助を行う密約も交わした。
無論、ヒルダはこんな約束を律儀に守るつもりは最初からない。
15年前の先帝の暗殺未遂事件以来、帝国内では特に地球教徒に対する嫌悪感が根強い。
どうにでも理由をつけて、用済みになった彼等を今度こそ根こそぎ始末する予定でいた。
元々帝国軍の中にも同盟軍の中にも信者が多い地球教徒故、潜入自体は簡単だった。
その段取りを終えた直後、ヒルダは、思わぬ報告を受ける。
皇宮の一室に軟禁していたアンネローゼが、何者かの手引きで密かに抜け出し、行方をくらませたのだ。
ヒルダには、丁度これから彼女を訪れ、問い詰めたい件があった。
自害したキル子の遺骨がどこにもなく、どうやらそれが、現在行方不明であるエミールが持ち出し、アンネローゼの手にあるらしいことが判ったのだ。
ヒルダは、ラインハルトが、キル子を自分と一緒の墓に埋葬するよう希望したことが許せなかった。
正妻としてのプライドがズタズタにされた屈辱感以上に、彼が死んでまでもキル子と一緒にいることを望んだことに、激しい怒りを感じた。
怒りの矛先は、当のラインハルトではなく、自害し既にこの世にいないキル子だった。
アンネローゼが、ラインハルトの意思を尊重し、願いを叶えてやりたいと思っていることは、ヒルダにも想像がついた。
だが、これだけはどうしても譲れない。
キル子の遺骨など、跡形もなく砕いて、ごみ処理場に捨ててしまわなけれな気が済まない。
いかに先帝の遺言とはいえ、姦通罪を犯し、その先帝を裏切った女と合葬するわけにはいかないと、いくらでも理由付は可能だ。
そう思っていた矢先の突然のアンネローゼの失踪に、流石にヒルダも狼狽した。
そして、彼女を手引きした人物と、皇宮から抜け出した理由は、間もなく判明した。
国営放送を乗っ取ったアンネローゼとその支援者達は、なんと全宇宙に向けて、彼女の女帝即位の宣言を発表したのである。
彼女の両脇を守るのは、ビッテンフェルト、ファーレンハイトの両元帥であり、そのすぐ後には、メックリンガー、シュタインメッツ等先帝時代からの軍最高首脳と、友人であるヴェストパーレ男爵夫人とシャフハウゼン子爵夫人、工部尚書のシルヴァーベルヒが並んでいた。
アンネローゼは、ラインハルトが臨終間際に、密かに彼女に手渡していた特別遺言を所持していた。
即ち、表向きには、自分はアレクを次期皇帝とし、ヒルダを摂政とするが、万が一それに不都合が生じた時は、どうか姉上に全権を託すので、事態の収拾に動いて欲しいというものだった。
この姉ならば、必ずや誰も傷つけることなく事を収めてくれるはずだというラインハルトの絶対的信頼が伺える内容だった。
甥や姪達の成長を見守りながら、いつかヴァルハラに召される日まで静かに余生を送るつもりでいたアンネローゼは、ついにその封印を解いたのである。
ヒルダは、ラインハルトが又しても、最後の最後で自分よりも姉を信頼していたことに打ちのめされる。
「予は、弟ラインハルト一世の意思により、新銀河帝国第二代皇帝アンネローゼ一世として、ここに即位を宣言するものである」
向かって右脇に守るように立つビッテンフェルトが、彼独特のよく通る声で宣言書を読み上げる。
「尚、皇太子には先帝ラインハルト一世陛下の第一皇子アレクサンデル・ジークフリードを指名する。前摂政皇太后ヒルデガルドは、その任務を解き、北東の離宮に居を移すことを命ず。また、摂政皇太后により元帥号を剥奪されたロイエンタール、ミッターマイヤー、ミュラー等には速やかに剥奪した元帥号を返還し、賊軍となっているその配下の者達も、全て元の階級での帝国軍への復帰を認めるものである。彼等が皇位を主張している第二皇子マクシミリアン・ジークフリードは、速やかに新女帝の前に出頭し、忠誠を誓うことを命ずる。尚、この度の件では、現在賊軍とされている者達も、皇太后に忠実に働いている者達もいっさいの罪を問わず、元の職務に復することを保証するものである。従って、両陣営とも速やかに武装を解除し、新女帝アンネローゼ陛下の元に終結することを命ずるものである」
アンネローゼは、すっと立ち上がると、中継カメラに向けて、銀河帝国で、再び内戦を起こしてはならぬ、この放送を聞いた者達は、速やかに宣言書通りに行動し、戒厳令を解除し、帝国全土が平和に復することを望むと訴えた。
先帝とよく似たカリスマ性を持つ美しい女性の言葉に、元から内戦など御免こうむりたかったフェザーン人達は、すぐに新女帝を支持することを表明した。
しかし、ヒルダに従い、これから自分達の時代がくるかもしれないという下心を持っていた者達は、まだ態度を決めかねていた。
特に、成り行き上とはいえ、やっと元帥に昇格したグリルパルツァーやクナップシュタイン等は複雑だった。
この放送は、移動中の連合艦隊やイゼルローンを発ったワーレン艦隊、合流を果たしたミッターマイヤー、ルッツ両艦隊でも傍受していた。
「僕は、伯母上の元に参上しようと思います。それが、絶対に内戦を避けたいという亡き母の意思だと思います」
ロイエンタールと同盟側も交えたパーツィバル内の会議室で、マクシミリアン皇子は、まだ声変わりのしていない声ながら、年齢に似合わない老成された口調で歴戦の名将達を前にそう言った。
この少年が、実はIQ170を超える天才児であることは、数年前に判明していたが、皇后の第一皇子であるアレクが対照的に凡庸であったことから、将来の皇位継承争いを懸念し、一部の重臣と教育係以外には秘せられていた。
しかし、どんなに隠そうとも、皮肉なことに開明政策を採ったローエングラム王朝では、個人間の通信の自由が大幅に認められたことで、この事実は皇子が成長するに連れて国民の間では周知の事実となっていた。
アレクを溺愛するヒルダには、このことも許せないことだった。
高貴な血筋の自身も優秀な自分の産んだ子よりも、平民出の寵姫の子の方が優秀だなどとは何かの間違いだと思った。
キル子の子供達を悉く暗殺したヒルダだったが、実を言えば一番殺したかったのは、このマクシミリアンに他ならない。
「皇子のお気持ちは、わかりますが、たとえこちらが内戦を望まなくとも、果たしてそう上手くいきますかな?」
ロイエンタールが腕組みしたまま、少し皮肉を込めた口調で言った。
あの皇太后が、すんなりと息子を一旦退位させ、姉君の即位を認めるとは思えない。
「たとえ皇太后様が僕を暗殺しようとしているとしても、僕は伯母上の元に行きます。僕は、小さい頃から母にずっと戦争で犠牲になる名もない一般兵士やその家族のことを聞かされてきました。今また上の人間の権力闘争で犠牲になるのは、やっぱり実際に末端で殺し合いをする兵士達です。帝国は、僕が生まれる数年前からやっと平和になったと聞いています。それなのに、僕のせいでまた戦乱の時代に逆戻りするのは、母が悲しみます。僕一人が死ねば内戦を回避できるのなら、それもまた一つの解決方法ではありませんか?」
まっすぐに大人達を見つめる聡明で優しい少年の言葉を、同盟側の将帥達も感心して聴いていたが、現実がそれを許さない可能性の方もまた高いことも知っていた。
「私も皇子のお気持ちはわかりますが、問題は、未だ憲兵隊と先帝の直営艦隊を傘下に収めるヒルデガルト皇太后が、果たしてアンネローゼ女帝を認めるかどうかです」
そう意見したのは、ヤン・ウェンリーの養子にして同盟軍の若き元帥でもあるユリアン・ミンツだった。
「それは、そうするしかないと思います。伯母には父の遺言がありますし、皇太后も父がどれ程伯母を大切にしていたかわかっているはずです。もし、伯母に何かすれば、皇太后は父に対してヴァルハラで言い訳できなくなってしまいます」
いかに天才とはいえ、最後の少年らしい言葉に、一同から好意的な笑みが漏れる。
確かに、ヒルダの一連の常軌を逸した行動は、全てキル子に対する嫉妬から始まっていた。それは、裏を返せば、彼女のラインハルト帝に対する強すぎる愛故であると言えた。
そのラインハルト帝の覇業の原動力であったアンネローゼと対立することは、ラインハルト帝を否定するに等しい。
ヒルダが、アンネローゼの提案を受け入れ、この政争が内戦に発展せずに終われば、取り敢えずこれ以上無益な血が流れずに済む。
とにかく、今はミッターマイヤーやルッツ達と合流するのが先だという結論で散会となった。

「そんな甘い終わらせ方、私は認めないわ」
案の定、ロイエンタールがトリスタンの戻り、貴賓室で会議の内容を伝えると、エルフリーデは激昂した。
「お前は本当にそんなことで済むと思っているの?あの女が、素直に政権を渡して離宮で隠居暮らしなんて承知するはずないでしょう?第一、あれだけのことをしておいて、何の罪にも問われないなんて、お前達の作った『公正な国家』とやらが聞いて呆れるわ」
エルフリーデは、怒りに拳を握り締めた。
だが、目の前の金銀妖瞳の男は冷静だった。
「お前に言われずとも、どうせこのままでは済まないから安心しろ。それより前から訊こうと思っていたんだが、気位の高いお前がなぜ、同じ由緒正しき生まれのヒルデガルド皇后を嫌い、平民のキルヒアイス大公女に肩入れしていたのだ?」
ロイエンタールは以前からの疑問を率直に聞いてみた。
途端、エルフリーデは、一瞬困ったような表情を見せた。
「…私も、なぜなのか上手く説明できないのよ。ただ、あの女の鈍感さが堪らなくなる時があるの。どうしてこの人は気がつかないんだろうって、何に対してそう思うのか、上手く言葉に出来ないけど、そう感じるのよ。キル子のことは、正直最初は利用することしか考えてなかったわ。平民の娘が下級貴族出の皇帝に気に入られれば、面白いことになるくらいの単純な悪戯心だったわ。でも、あの子、私のやっていることによく協力してくれたわ。これも、本当は競売にかける予定で提供してくれたんだけど、今は形見になってしまったわ」
エルフリーデは、そう言うと、ジュエリーボックスを開け、キル子が一昨年の新年の一般参賀の際に身に着けたオリエンタル風のデザインの首飾りを愛しそうに眺めた。
「これ、寄付させて頂きますので、競売にかけて下さい。珍しいデザインにしたんで結構注目されましたから、きっと値が上がりますよ」
そう言って、これを渡された時の弾けるような笑顔が忘れられない。
大公女の称号を得ても、寵姫になって皇帝の子の母となっても、エヴァンゼリン同様に、常にエルフリーデを伯爵令嬢として扱ってくれた。
優しいだけでなく、賢い女性だったのだと思う。
彼女の最期を聞かされた時の悲しみと罪悪感は、例えようもない。
そして、改めて、自分のヒルダに対する長年の勘は正しかったのだと思った。
「私よりも、お前の方こそどうなの?お前が心酔して、忠誠を誓った皇帝が秘書官時代からずっと信頼し、妻にした女性でしょう?親友のミッターマイヤー元帥は皇帝が即位した直後からフロイライン・マリーンドルフを皇妃に押してたってエヴァが前に言っていたわ。それなのに、お前は昔から私以上にあの女が嫌いだった。そうではなくて?」
「ん?まあ、そう見えたか」
ロイエンタールは、女の勘の鋭さに少し辟易しながら、曖昧に頷いた。
「見え見えだったわ。あの女もそれに気付いていたからお前には極力近づかなかったじゃない。お前はいったいどういう理由であの女を嫌っていたの?私も答えたのだから答えなさい」
「不味そうな女だと思った。それだけだ」
ロイエンタールは、短くそう答えた。
実のところ、彼にも上手く言葉で説明できない。
少なくても、今回の突然の変貌以前のヒルダは、聡明で表面的には優しい女性として通っていたし、だからこそ皇帝もミッターマイヤーもその人柄を信頼していたのだろう。
故に、彼女を素直に好意的に見られない自分の方が、歪んでいるのだと思っていた。
ところが、今回の件で、図らずもそうではなかったことが判った。
「不味そう?」
エルフリーデは怪訝そうに訊き返す。
「ああ、お前が作った料理以上に不味そうだった」
「何ですって!」
「多分、実際に食べても不味い女だったんだろうな。だからマイン・カイザーも気の毒なことだと内心思ったものだが、まあ、あの女しか知らんなら、それに気付くこともないかと思っていた。だがキル子が現れ、女の味を覚えてしまった。悲劇の予兆は、全て15年前からあったというわけさ」
「お前らしい言い方ね。女は食べ物じゃないわ」
「まあ、そう怒るな。お前は一目見て美味そうだったからな。一つ難を言えばまだ熟成されてなかったことだが、つい我慢できずに食っちまったら17年も食べ続けることになったわけだ」
そう言った男は、何時の間にかエルフリーデの後方に回り、首筋に唇を這わせていた。
「やめなさい。隣の部屋には子供達がいるのよ」
エルフリーデは、そう言って払いのけようとしたが、力で敵うわけがない。
「ならば、フロイラインの寝室にお連れしようか」
そう言った途端、体がふわりと宙に浮いた。
「やめなさいと言っているでしょう?ここは戦艦の中なのよ!」
エルフリーデは尚も抵抗を試みたが、ロイエンタールは全く聞く耳を持たなかった。
「お前が言ったんだぞ。俺はこれでも罪を償っているつもりなんだがな」
それを聴いて、エルフリーデは軽い溜息と共に抵抗を諦めた。

コメント一覧

葉子 (08/08 04:30) 編集・削除

この先、一波乱では済まないんだろう…どきどき。リセット前の方がヒルダ的にはまだマシなのだけど、ロイエルの幸福を願いたい身としては、さて、…。妥協点はないのでしょうか(ないのだろうけど)。

Jeriさん、お願いだからオスカー君殺さないでー!ロイエンタール家から死者を出さないでー!(涙)と助命嘆願しておきます。

>>つい我慢できずに食っちまったら17年も食べ続けることになったわけだ
またまた激しい愛の告白がwww
もうこの二人は寝食忘れてずっとくっついていればいいんじゃないでしょうか。
※どうして原作であんな酷い引き裂き方を…(怒)。あいつらみんな鬼だと思います(涙)。

この様子だと、きっとちちうえは五男が「ははうえ、トイレ」と寝ぼけて寝室のドアを開けても、部屋の外を指差して「トイレならフェリックスにお願いしなさい、いいね?」と笑顔で答えてまったく動じないと思います(翌朝叱られる長男涙目www)

Jeri (08/08 18:02) 編集・削除

>葉子さん
>助命嘆願
ちょっとネタバレになりますが、助命も何もそもそもこれは元々ない世界なんで、現実(原作通り)では、ロイエンタールは叛乱で死んでますし、エルフリーデも実はあの後すぐにルビンスキーの火祭りに巻き込まれて既にいません。故にフェリックス以下の子供達も元々存在していませんし、キル子なんて人も本当はいなかったんです。
全ては「時の番人」が意地悪してヒルダに見せた長い長い妄想…
のはずなんですが、実は最後の最後に更なるドンデン返しが…
というわけで、4回くらいのあらすじで終わる予定のものが15、6回になってしまいそうです。

>もうこの二人は寝食忘れてずっとくっついていればいいんじゃないでしょうか。
案外、原作のエルはロイ邸に住み着いて以来、そのくらい毎晩…いや、ロイの非番の日はそれこそ一日中ベッドの上とかで濃密なお付き合いになっていたのではないでしょうか?
大本営のフェザーン移転が発表された直後、新無憂宮の回廊を話しながら歩く双璧の場面がありますが、ロイったら、ミッタと一緒にいるのに、しかも話題が大本営移転などという超重大事項にも関わらず、心の中でエルはどうするか?なんて考えてたんですよね。
今までのロイの女性遍歴パターンなら、出征や異動は別れる格好の切っ掛けだったはずなのに、エルがフェザーンまで付いてくる気なら連れていくつもりで、実際ちゃんと連れてってるんですから。
これって、今までの彼の女性に対する行動パターンにはないことをしたことになります。
ヒルダにプロポーズしておきながら、「でもお姉ちゃんがもし反対だったら結婚諦める」とかしっかり書いてあるカイザーに比べたら、エルは少なくともラインハルトに対するヒルダよりも、(よくも悪くもですが)ロイに対して影響力が強かったことになります。
よしりんは、どっちのカプもなんであんな中途半端な書き方しかできんかったんだろう?と思わずにいられません。

葉子 (08/08 20:16) 編集・削除

>>エルフリーデ焼死(なのか?)
そんな…(落涙)。皆殺しの田中先生、じゃなくてJeriさんwww
>>助命嘆願
銀英がまだ完結していない状態のころ、田中先生のところに「誰々を殺さないで(涙)」という助命嘆願がわんさか寄せられたという話を読み、自分は完結後のファンなので「二次キャラにそれはないわー」と思っていたんですけど、今回、その気持ちがよく分かりました(笑)。連載に立ち会えるって貴重な体験なのですね。
>>心の中でエルはどうするか?なんて考えてた
国事そっちのけwww
原作7巻のあの場面は何回読んでも、ロイエンタールがやばいくらいかわいい。確かアニメの67話、事後に裸で寄り添う二人(アニメ解釈はアレなのも多いけど、これは秀逸)とか、寝てもさめても君のことしか頭にない状態の「薔薇の運命に」生まれし帝国元帥の最初で最期の恋・しかも一目惚れ。書いてないだけで、きっとずーっとくっついてたにちがいありません(断言)。
>>よしりんは、どっちのカプもなんであんな中途半端な書き方しかできんかったんだろう?と思わずにいられません。
それは、よしりん先生も恥ずかしかったから!だと思います。自分、それなりに人生経験つみましたが、今でも原作6巻の例のページは恥ずかしくてしょうがないので、指の間から読んでますwwwああ、「処女を奪う」という表現の破壊力のすさまじさよ。
でも個人的には、双方の臨終シーンを比較すると、「愛してる」の台詞はなくても、ロイエルには愛(ないし、それにちかいもの)が見えると思います。我ながら、どりい夢だなーと思いますが。

べる (08/08 21:43) 編集・削除

姉ーーーーーーーー!
さすが、トロフィーを投げただけの事は(アニメ準拠w)ある!!!

今回はいろいろとロイロイがオヤジでいいぞもっとやれwww

しかしまたもや地球教徒の暗躍ですか。
いや、腹立たしい(怒)
あいつら、ゴキブリのように嫌いだわ!!!!!

ミミ (08/08 22:03) 編集・削除

こんばんは〜 イヤア うわはははは こんな事もあろうかと と、もう一つの遺言を出してくるなんて。アンネローゼやるう。女の戦いどうなるかね。ところで、ヒルダってとことんエゴイストですね。道理でね 疑問が解けたわ。エルがロイの家に居る事が問題になった時 普通ヒルダ程賢かったらあのリヒテンラーデ公爵粛清事件をもう一度洗い直そうとか考えるでしょう でもそんなに事一切考慮にいれずエルを罪人扱いして良しとしてるんだもの。なんかずっとおかしいなあと思ってたんですよ。そりゃ選民意識バリバリの人間にとってみれば負け組の罪人の事なんてどうでもいいよね。なにが「公正な税制 公正な裁判」じゃ!リヒテンラーデ公爵には 裁判も受けさせてないじゃんか、ふん そんなんだからローエングラム王朝なんか信用ならんのじゃ!と リヒテンラーデ公爵ファンは主張したい。あ それから ブリュンヒルトにアレクと一緒に乗り込もうとしてるヒルダってなんか淀君みたいですね。策を弄する所は日野富子みたい。ガンバレ ヒルダ どうせヴァルハラにはいけないのよ

ごん (08/08 23:00) 編集・削除

アンネローゼⅠ世……前話したネタの中で考えてました(爆)
その話ではヒルダは皇后にならず、別の某キャラが偽名で皇妃になるため、愚鈍ではないものの、帝国全体の行政等を理解するには識見が足りない、ということであっさり「皇妃・皇后の政治参加は認めない」ということで決着してしまったので、幼年の皇子を残して死ぬのを知ったラインハルトが、土下座して皇子が15までになる間、帝位に立って欲しいと頼み込んでなるんですが。(原作ではヒルダの識見ゆえに、大議論となり、その末に結論としてこの改革? が行われなかった)
エピローグ的に扱われますけどね。

ちょっと物凄いネタバレされましたけど、なんとなくロイエンタール家の事情はアンリが見せたというより、ヒルダの偏見から来たもののような(爆)

うちの平成帝国貴族でも、エルは子供をランベルツに預けたあと、ロイの後追いというより、卵産み終えた鮭状態で気が抜けて死んでしまったことにしてます。火祭りで死ぬって、焼死体はやだなあと思うので(火葬にすれば同じでも)、なんか別の方法で。

>案外、原作のエルはロイ邸に住み着いて以来、そのくらい毎晩…いや、ロイの非番の日はそれこそ一日中ベッドの上とかで濃密なお付き合いになっていたのではないでしょうか?
いやそれは死にます(エルが(笑))
この妄想世界のエルの毎年の書初めは「重労働」に違いない。

あと、うちの方、このブログにではなく、本体のhpにリンク張りなおします。
もうかなりの人にダメージ食らわせてしまったかもしれないですが、今この状態のブログにいきなり飛んでくるのはヤバイですし、その方が他のコンテンツも読みやすいと思い至ったので(←すぐに気づくべきでしたが、なぜかこちらのブログの方に引っ張っちゃったんですよね)
では。

Jeri (08/11 11:49) 編集・削除

>葉子さん
エル早世も一つの原作解釈ですので…

>「薔薇の運命に」生まれし帝国元帥の最初で最期の恋・しかも一目惚れ

この解釈が可能な人がロイエル派なんだと思います。
同様に、ヒルダたんに当たり散らすラインハルトとか、「予より遥かに政治的識見に富む」とユリアンに言った「のろけ」を「ラインハルトとヒルダは当人達も無自覚に実はすごく愛し合ってあたんだ」と思えるとライヒル派になるんだと思います。
私は、よしりんの恋愛描写の苦手意識からすると、どっちもありだと思えるんですが、テニプリとイニDの同人誌を作ってるヲタ友達は、「お姉ちゃんが反対したら結婚しない」とか本気で言ってる奴のどこに愛があるというの?という見解でしたw
因みに彼女達が言うには、相手に当り散らしたり、相手の能力を認めたら恋愛感情として認定されるなら、BLの世界なんてまさにそれなんだから、ラインハルトの相手は、同じく当り散らされていたエミールでも、能力を評価されていたキルPや双璧、ヤンでも構わないじゃんかという理論になるとのことです。だから、よしりんが殊更BLを嫌ったり、らいとすたっふルールなんて作るのはおかしいと言ってまして、実は今回のを書く切っ掛けの一つがそれだったんです。

>べるさん
考えて見れば、銀英伝の世界を創った切っ掛けは、全て姉様でした。
本伝でも姉様がむしろヒルダたん並みに出番が多く、ラインハルトの傍にずっといたら、歴史は随分いい方向に変わっていたのではないかと読みながらずっと思っていました。
ただ、そうなると艦隊戦描写がなくなるので、×だったのでしょうが。

>ミミさん
原作のヒルダは、ご都合主義なストーリーのせいで、結果だけみるとエゴイスト化してしまった可哀想なヒロインだったと思います。
彼女のような万能キャラをラインハルトの相手にしたいのなら、ストーリー上無理があるので、矛盾を産んでしまったように思えます。
今回の話は、それに対する一種の欲求不満発散小説と思って下さい。

>ごんさん
>エルの毎年の書初めは「重労働」
www
いや、もしかして「超過勤務」とかかもしれません。
火災事故の死因は、焼死よりも一酸化炭素中毒とかの方が多いそうなので、死亡後に遺体が焼けなければ、案外きれいなままの場合もあるんじゃないかとか思って書きました。
いずれにしろ、私も原作終了後のエルの人生ってそんなに長くないような気がします。
だから、オベがドミニクに聞いた時点で、既にこの世にいない可能性が高いのではないかと思っていたんです。

葉子 (08/11 17:11) 編集・削除

>>「お姉ちゃんが反対したら結婚しない」とか本気で言ってる奴のどこに愛があるというの?という見解
激しく同意です。繰り返しになりますが、そこに愛はないと思います(個人的には)。だったらBLまで行かずとも精神的に寄り添う形の黒金とか赤金の方が納得できます。らいとすたっふルール?「それがどうした?」ですわwww
その点、「このまま付き合ってたらいろいろ面倒になるから、アノ件の示談金積んで別れろ」と親友に言われても頑として別れなかったロイエンタールと対照的(涙)。

Jeri (08/11 19:16) 編集・削除

>葉子さん
それなら「妊娠してるとわかっていたら、即座に堕胎させていた」とか言ってる男のどこに愛があるの?という論法も成り立つわけで…w
結局あの一文は、ラインハルトの姉様への強い思いを表現したいがために余計なことが書いてしまったのだと思います。実際にはヒルダと姉様は元々関係が良好だったのだし、ヒルダのようなパーフェクトな女性を小姑としては、弟の結婚相手に反対する要素がどこにもありません。もし、あるとすれば、姉様がもう少しネガティブな性格で、ヒルダ個人ではなく、門閥貴族の女性ということで反対という可能性はあります(母親が門閥貴族に轢き殺されていることや、自分自身の不本意な後宮入りとかで)が、もしそうなったら、ラインハルトは彼なりに一生懸命姉様を説得したのではないかと私は思います。姉様も、今まで自分の言うことは何でもきいてきた弟がそこまで言うならと折れたと思います。
ヒルダは、賢いことを表現しようとして書いたら、計算高く見えてしまったり、気が利く女性であることを表現しようとして、無神経に映ってしまったりと、当時のよしりんの女音痴や作家としての未熟な部分の犠牲になったキャラでした。
ライヒルは、結婚までした主人公とヒロインの割に、あまりにも作者が直接的表現を避け過ぎた為に、なんか変なカプになってしまった感じがします。
どこかに一箇所だけでいいので、ストレートに愛情を表現している一文があれば、ヒルダに対する印象って、随分違ったものになったと思いますよ。

葉子 (08/11 22:08) 編集・削除

>>「即座に堕胎」発言と愛は両立するのか?
幼少の生い立ちが不幸な人の中には、「(一応)好きなひとが出来て、生きていくのはソコまで嫌ではなくなったが、かといって未来(血を残す=子供)に積極的になれない→『パートナーと二人でやっていきたい。子供要らない』」という人は一定数いますので、ロイエンタールもそんな感じではないのかな、と(自分は)思っています。もっとも、キミ30歳過ぎてるんだから避妊くらいしろ、めちゃくちゃだ、と思いますが、そこでだらしないのがロイエンタールの大ばか野郎クオリティなので(以下略)。

ラインハルトはその辺責任取ったので男らしいですよね。偉いと思います。ってなにを真面目に語っているのでしょう、自分(度し難いな、我ながら)。

リセット-寂寞の皇后-(11)

どうだった?
特別無修正のR18指定映像は?

再び漆黒の中に独り浮かんでいるヒルダの耳に、あの声が聴こえた。

ひどいわ!
あんなものを見せるなんて。

だって、あのくらい決定的場面を見ないと、あなた鈍感だからわからないでしょ?
まあ、あなた一度もイッたことない人だから、感度よくないのはしょうがないか。

やめて!
やめなさい!

ヒルダは耳を塞いだ。
だが、声の主は、構わず下品な台詞を連発し続けた。

その点、キル子ちゃんは15年間イキまくってたからなぁ…
どんどん上達していくカイザーに開発されまくっちゃったから
一晩に何十回もイクこともざらだったよ
人間のいう「体の相性」ってのが抜群だったみたいだね
カイザーの方もあのままあなたとだけしかしてなかったら、こんな気持ちいいこと知らないまま死んじゃったんだから、それだけで幸せだったと思うよ♪
キル子ちゃんもさぁ、カイザーがあと5年長生きしてくれたら、あのエルフリーデちゃんの回数に並ぶはずだったんだだけどなぁ…

お願い、やめて!
私だってわかっていたわ。
あの方が、決して私を愛して結婚したわけじゃないことぐらい。

ああ、はい、はい。
つい調子に乗っていらんこと言ってしまいました。
ごめん、ごめん。

あれは、本当のことなの?

ヒルダは、少し縋るような口調で問うていた。
最後に、目の前で繰り広げられた夫と寵姫の痴態は、実際のものではなく、この意地の悪い「時の番人」とやらが偽造した映像と思いたかった。

さあね。
あなた自身の猜疑心が産んだ妄想だったのかもしれないし、本当なのかもしれない。
僕は神様じゃないから、わからないな。

それだけ言うと、声の主はまたケタケタと哂いながら消えていった。

ヒルダは、はっとして起き上がると、いつもの自室の寝台にいる自分に気付いた。
『今のはいったい何だったのかしら?悪い夢?それとも…』
寝覚めの悪さをベッド脇のテーブルの水差しの水を飲んで喉を潤すと、時刻はまだ早朝の6時だった。
もう一度寝る気にもなれず、起き出して仕事を片付ける為に、女官達に起床を伝え、身支度を整えた。
執務室に入ると、予定していた件の前に、もう一つだけ別の命令を発した。
宮内省の係官に命じて、直ちに皇室御用邸である通称「レオンハルト山荘」の解体し、周辺施設を含めて全て焼き払うよう命じたのである。
これには流石にマリーンドルフ閥に属する担当係官も驚いた。
あの御用邸には、周辺住民の雇用者も多く、先帝の意向で皇室一家が使用しない時は、主寝室を含めた3室以外を一般市民にも貸し出して利益を福祉団体に寄付している。
まだ十分使用可能な建物をわざわざ焼き払うより、今後必要としないならば、民間に払い下げるなりしてはどうかと進言する係官に、ヒルダは即座に進言を却下し、命令に従えないなら今すぐ辞表を出すようにと、無情にも言い捨てた。
『なくなってしまえばいいのよ。陛下とあの女が、あんなことをした場所なんて、全部焼けてなくなってしまえばいい…』
結局、直後には宮内尚書まで説得に現れたが、絶対者である摂政皇太后の意思を変えることはできず、レオンハルト山荘は、翌日には跡形もなく地上から消えることとなった。
宮内尚書ベルンハイム男爵と、侍従長ハッセルバック男爵は、その日の午後、揃って摂政皇太后に対して辞表を提出し、受理された。
後任には、マリーンドルフ家の親族が就くことが、即日発表された。
ラインハルト即位時からの宮内尚書で、皇帝夫妻の結婚式では緊張のあまりラインハルトにからかわれたエピソードを持つこの古参の忠義者は、遂に新たな主君に見切りをつけたのだった。
ヒルダは、一番肝心な仕事にも余念がなかった。
ミッターマイヤーをロイエンタール同様、大逆犯として拘束し、大元帥号を剥奪する為の法的措置をを行う書類を早急に揃えると、直ちに憲兵隊を逮捕に向かわせた。
しかし、一門の検察官と憲兵隊の中将が、部下100名を引き連れて自邸を取り囲んだ時には、既に裳抜けの空だった。
同時刻、宇宙港から、宇宙艦隊司令部の戦艦一万隻が航路局の制止を無視して出港し、無事大気圏外へ出た。
上級大将であるバイエルラインやドロイゼンなどの高級幕僚達も、家族共々自分の艦に乗せてフェザーンを離脱しているところを見ると、既に何日も前から計画していたことが窺える。
フェザーン宙域では、ビューローが編成した更に1万隻の艦隊が、疾風ウォルフを出迎えた。
先手を取られたことを悟ったヒルダは、直ちに、憲兵総監であるケスラー元帥に命じて、フェザーン全土に戒厳令を敷いた。
しかし、一部隊を向かわせたルッツ邸も空で、明らかに謹慎を破り家族全員で行方をくらませたのは明白だった。
更に、この時点で、フェザーンにいた先帝の主要幕僚の内、メックリンガー、ファーレンハイト、ビッテンフェルト等もその家族共々行方不明であることが判明する。
自分が孤立しつつあることを悟ったヒルダは、すかさず次の手を打った。
この15年、昇進が止まっていて内心鬱屈しているものを抱えていることが判っていた、グリルパルツァー、クナップシュタインの両大将に元帥号を与え、更に門閥貴族出身で以前からヒルダに秋波を送っていたトゥルナイゼン中将を上級大将に昇進させ、先帝の直営艦隊5万隻の指揮権を与えた。
更に、アレク帝の立場をより盤石にする為に、先帝の姉であるグリューネワルト大公妃に対して、賊軍に担がれている先帝の庶子のマクシミリアン・ジークフリード皇子に皇位継承権はなく、アレクサンデル・ジークフリードのみが唯一にして不可侵な先帝の後継者であることを支持する立場を公式に表明するよう迫った。
しかし、今まで一度としてヒルダに逆らったことのない大公妃が、この時ばかりは、きっぱりと拒絶した。
アレクが帝位にあることには異存はないが、それよりも、先帝のご意思通り、ロイエンタール、ミッターマイヤー両大元帥やミュラー、ルッツ等の元帥号を返還し、無益な内戦を避けるべく歩み寄るべきだと説いた。
しかし、その答えを聞いたヒルダは、即刻アンネローゼを皇宮の一室に軟禁した。
先帝の姉である彼女も、アレクに代わる帝位継承資格者だった。
無論、流石のヒルダも、ラインハルトがあれ程大切にした姉君を粛清するつもりはなかったが、彼女の身柄がマクシミリアン皇子派の手に渡れば、こちらに不利になる。
ヒルダは、数日の間に、親第二帝妃派と目されていた官僚や高級軍人を次々と皇帝に対する反逆罪の名目で自裁又は処刑という形で粛清していった。
その中には、長年先帝に忠実に仕えた元宮内尚書のベルンハイム男爵や、元侍従長のハッセルバック男爵もいた。
人々は、摂政皇太后の恐怖政治に震え上がり、女の嫉妬の恐ろしさを実感していた。

あーらら、ずいぶんとまた、大胆にやっちゃったねぇ…

眠りについたヒルダの耳に、またしてもあの声が聴こえた。

私のアレクを守る為だわ。
あの女の息子が一人生きている限り、内戦の火種は消えないわ。
今の内に消しておくのが帝国の為です。
あの女に味方していた者達は、いつ反逆者にならないとも限らないわ。

ふふふ…帝国の為なんかじゃなくて、あなた自身の為でしょ?
それに、あなたがキル子ちゃん派だって決めつけて殺しちゃった人達、本当にそうだったのかなぁ?

え?

そうそう、この前見せ忘れた映像がもう一つあるんだよ。
これ見てみて。

ヒルダの前に、再びソリビジョンの再生映像のようにある画面が浮かび上がる。
今回の登場人物は、数年前のラインハルトと、昨日自裁させた元宮内尚書のベルンハイム男爵と、元侍従長のハッセルバック男爵だった。
二人の中年男は、何やら皇帝に向かってしきりに説いている。
「予に旧王朝の淫蕩な皇帝どもと同類になれというのか?」
最初に聴こえたのは、ラインハルトの臣下を叱責する言葉だった。
「そういうことではございません。陛下」
二人の忠義の臣は、どうやら皇帝の極端な潔癖症を指摘し、キル子を寵姫に迎えてからのヒルダとの不自然な夫婦関係を改善するよう交互に口を酸っぱくして説得しているようだ。
ヒルダは、皇帝の寵愛の篤いキル子に擦り寄っていると見ていた二人の意外な姿を見て少し驚いていた。
「今のままでは、皇后陛下があまりにお気の毒です」
「それだけではありません。第二帝妃にいくら野心がなくとも、このままだと宮中のパワーバランスが崩れます。下手な派閥争いや皇位継承争いなどという旧王朝の如き愚を犯さない為にも、どうか、皇后陛下との関係の修復にご尽力下さい」
「修復」という言葉にラインハルトは些か反発を覚えた。
彼にしてみれば、別段ヒルダと険悪な状態にあるつもりはない。むしろ、政務を行う際の補佐役としては、誰よりも一緒にいる時間の長い人間であり、皇后としても一人の政治家としても彼女には多大な敬意を払ってきたつもりだった。
しかし、人生経験では先輩であり、共に既婚者である二人の忠臣の言葉に、ラインハルトも次第に耳を傾け始めた。
「そういうものなのか…」
同時に二人の女性と関係することが、不誠実だと考えていたラインハルトの心が揺らいでいる。
「そうだな。予がカイザーリンと何もないことで、勘違いする者達から、カイザーリンが軽んじられるようなことがあってはならぬ」
ラインハルトは、遂に心を決めたようだ。
ヒルダは、どんな理由であれ、まだラインハルトが自分の立場を考えてくれていたことが嬉しかった。
同時に、粛清してしまったベルンハイム男爵とハッセルバック男爵には、取り返しのつかないことをしてしまったことに気付いた。
「だが、予はもう何年も、その…カイザーリンとは…夫婦のことをしていないのだ。今更どうすればいいのか、見当がつかない」
正直に心情を吐露する若い主君に、年輩の忠臣達は、それならば妙案があると言った。
「来月完成予定の避暑用の御用邸に、皇后陛下とアレク殿下の3人でお出ましなされてはいかがです?」
「そうですとも、陛下と正妻である皇后陛下とご嫡男であるアレク殿下との3人が、本当の意味での『皇帝ご一家』です。近頃ではもっぱら第二帝妃ばかりが目立っていて、このままでは国民にも廷臣達にも示しがつきません。もちろん、陛下にお子を次々を差し上げていらっしゃるキルヒアイス大公女はお手柄ですが、お世継ぎはあくまでも皇后のお子であるアレク皇太子であり、第二帝妃のお子は、将来アレク皇太子をお助けする立場に過ぎません。そのことを内外に広く知らしめる為にも、この度のご静養は、何卒ご一家3人でお出かけ下さい」
「うむ。卿等の言うことは尤もである。カイザーリンには早速打診してみるとしよう」
「お聞き入れ頂き、感謝致します。廷臣を代表してお礼を申し上げます」
宮内尚書がそう言って丁寧に礼をすると、侍従長もそれに倣って退出していった。

何ですって?
ヒルダは衝撃を受けた。
あの山荘行の裏に、こんな事情があったなんて、彼女は全く知らなかった。
知っていたら、ラインハルトに誘われた時、何を差し置いても同行しただろうし、尚書と侍従長を粛清したりもしなかった。
次の場面は、翌日、ヒルダに断られたことをラインハルトが二人に伝えているところだった。

「やはり、カイザーリンはもう予と夫婦に戻る気はないらしい。考えてみれば当たり前かもしれぬ。カイザーリンと寝室を共にしなくなってもう5年にもなるのだからな。彼女が予を夫としては見限ったとしても、仕方がない。自業自得だな」

違う!
違います陛下。
あの時、陛下がまさかそんなお心でいらしたなどとは夢にも思わなかったのです。
あの頃の陛下は、もうすっかりキル子に夢中で、義務で私を一緒にお連れ下さっても空しくなるだけと諦めてしまっていました。

肩を落とす皇帝に、無論、別次元にいるヒルダの言葉は届かない。
宮内尚書と侍従長は困ったように顔を見合わせた。
「弱りましたなぁ…既に現地採用の職員も待機しておりますし、周辺に作った御用牧場を一家でご視察なさるスケジュールも組んでしまっております。誠に恐れながら、皇帝陛下にとって、ご静養とはいえ、半分はご公務です。皇后様にご同行をご承諾頂ければ、御用邸の名前を『ヒルデガルド山荘』としてはどうかと、今も宮内尚書と話していたのですが…」

え?
ヒルダはまたしても衝撃を受けた。
あの山荘が、本当はそんな風になる予定だったのか。
そうと知っていれば、アレクと一緒に同行したのは勿論のことだが、その後のあの山荘の運命も全く違うものになっていたはずなのに。
しかし、既に建物も御用牧場を初めとする周辺施設も、灰に帰してしまっている。
後悔しても遅い。

侍従長の言葉にラインハルトも頷く。
「うむ。それは予もわかっている。皇帝とは面倒が多い仕事だからな」
「仕方ございませんな。今回のご一家でのお出ましは、周辺地域の一般市民の期待も大きく、今更陛下と大公妃様お二人では、些か寂しいものがございます。皇后様のお奨め通り第二帝妃とお子様方をご同行されるのがよろしいかと」
「私もそれしかないと存じます。それにしても、皇后様は、本当にこのままでよろしいのでしょうか?」
「考えてみれば、カイザーリンと予とは、別に結婚前に恋人関係だったわけではない。予の弱さが原因で偶然にもアレクを身籠ることになってしまい、逆らえる立場でないあの人にとっては不本意なことだったのかもしれない。もしかしたら、キル子を寵姫に薦めたのも、そういうことだったのではないかと今にして思うのだ。それなのに、あの人は皇后としてずっと予を支えてくれて感謝してもしきれない程だ。あの人は、ずっと仕事をしていたかったのかもしれない。それなのに、予の所為で、あの人の人生を狂わせてしまい、申し訳ないことをしたと思っている」
「そう悲観されるものではございません。陛下のような方に魅力を感じない女性など滅多におりますまい。しかし、世の中には稀に、男女問わず異性に対する興味や恋愛感情といったものが極端に希薄な人間がいるという心理学者もおります。恐らく、皇后様は、本来恋愛や結婚よりも仕事に生きていた方が幸せなタイプの女性だったのではないでしょうか」

ラインハルトと二人の臣下との会話をヒルダはじっと聴いていた。
「違うわ!」と叫びたかったが、届かないのが判っているので何も言えない。
自分が仕事に生き甲斐を見出したいというのは、当たっていないこともないが、ラインハルトに対しての恋情は本物だった。
ずっと彼だけを見て、彼が振り向いてくれるのを只管待っていた。
だから、あの時、彼が落ち込んでいるのに付け込むような気がしないでもなかったが、結ばれた時は本当に天にも昇る気持ちで幸せだった。
だが、同時に、ラインハルトが自分を女性として愛している故の行為ではないこともわかっていたので複雑だった。
故に翌朝の突然のプロポーズにも返事ができなかったのだ。。
無意識に自分の人生に完璧を求めてきたヒルダにとって、いかに恋い焦がれた相手であろうと、自分への愛情が確認できないまま結婚するのは躊躇いがあった。
しかし、懐妊が判明し、ラインハルトという人間を知るに連れ、彼が元々異性に対する欲求が極端に少ないタイプの人間なのだと理解するに至った。
ならば、この潔癖な青年は、結婚さえすれば、もう自分以外の女性に興味を示すことはないだろうし、あとは時間をかけて静かな愛を育てていけばいいと思ってプロポーズを受けたのだ。
ところが、彼の奇病により、その時間がなくなってしまった。
しかし、「時の番人」が現れて、病状が初期の段階まで時間をリセットし、何とか寿命を15年延ばせることになった。
全てが順調にいくかと思われた時、計算外のことが起こった。
その天才性故に、一部精神が極端に未熟だったラインハルトが、寿命が延びたことにより人並の男同様、異性に恋愛感情を持てるまでに精神的に成熟してしまったのだ。
そして、その相手は、悲しいことに結婚相手であるヒルダではなく、突然現れた亡き親友の面影を持つ少女だった。
彼にとって常に良い妻であり、補佐役でなければいけないと思い込んでいたヒルダは、ラインハルトの思いを汲み取り、キル子を自分から寵姫にするよう奨めた。
ヒルダには、これまでラインハルトとの間に築いてきたものに対しての自信があった。
自分は単なる妻ではなく、建国の功臣の一人であり、彼の最も信頼する側近の一人であるという自負である。
昨日今日突然現れた何も知らない女など、決して太刀打ちできない強い絆があるはずと信じていた。
しかし、ヒルダはわかっていなかった。
人と人が愛し合うのに、時間など必要ない場合もあるということを。
ラインハルトのキル子に対する愛の深さと、キル子がヒルダが考えているよりもずっとラインハルトの足りない部分を補える能力や識見をもった女性であることを見抜けなかったのだ。
それが、彼女の無自覚な傲慢さ故であることにも、ヒルダ自身気づいていなかった。

トリスタンを総旗艦とする連合艦隊は、ミッターマイヤー、ルッツ両艦隊との合流ポイントに向けて順調にワープ航行を続けていた。
ワープの衝撃が最も少ない一般用居住区の貴賓室では、エルフリーデが漸く寝静まった下の4人の子供達の寝顔を確認して寝室を出た。
「貴方達も早く寝なさい」
居間で、三次元の戦術シュミレーションに興じている長男と次男に向かって言うと、息子達は素直に「はい。母上」と言いながら再び目の前のボードに熱中し始め、当分就寝する気配はない。
エルフリーデは、それ以上何も言わずに、貴賓室を出ると、ロイエンタールの執務室に向かった。
机の上の端末で何やら確認している男は、軍属でないエルフリーデの入室を特に咎めなかった。
「お前はこの内戦をどう終わらせたいの?」
エルフリーデは、意味深な質問をした。
今や、ローエングラム王朝は内部から崩壊しつつある。
この機に乗じて一気に自身が全権を掌握することも、彼には十分に可能である。
そして、かつてのラインハルト同様、皇帝に譲位を迫ることも。
だが、目の前の名将は、そんな彼女の思惑を軽く受け流した。
「さあな。結果がどうなるかは神のみぞ知るだ。とりあえず今の我々は、第二皇子を奉じてフェザーンの皇宮に乗り込むことが第一目標だ」
「皇太后とアレク帝はどうなるの?まさか無事ではいられないでしょう?」
「お前があの母子の心配をしてやるのか?」
「その逆よ。先帝の唯一の嫡出皇子であるアレク帝は、いずれにしろ生かしてはおけないでしょう。でも、皇太后はただ殺すだけじゃ気が済まないわ。あの女がやったことを全部認めさせてから処刑すべきよ!」
エルフリーデは、怒りの炎に燃える青い瞳でじっと男を見た。
「それはどうかな。マクシミリアン皇子が即位して、ローエングラム王朝がこのまま続くとなれば、下手にあの女の所業を暴くことは、あの女を自分の実質上の後継者に指名したラインハルト帝の識見が疑われ、国民のローエングラム王朝への信頼が揺らぎかねない」
「実際にそうだったのだから仕方ないでしょう?先帝は人を見る目がなかったのよ」
「先帝も神ではないからな。特に女に関しては極端に免疫が少ない方だった故仕方ない。しかし、皇太后は本当にバカな女だ。誰一人としてあの女の地位を脅かす者などいなかったのに、わざわざ自分から敵を作って墓穴を掘ったか」
「欲をかき過ぎたのよ。あれだけ恵まれて、何一つ足りないものなどなかったはずなのに、皇帝の愛まで欲して、それが得られなかったからと言って、その不満を全部キル子にぶつけて…」
「まあ、女という奴は往々にして愛とやらをやたらに欲する生き物だからな」
「また、お前の偏見が出たわね」
「お前はいらないのか?」
金銀妖瞳が皮肉な光を放って冷笑を返す。
「ええ。私はキル子や皇太后のように、愛など欲しないわ」
「では、お前はいったい何を求めて俺と17年も一緒にいる?金か?周囲の羨望か?」
「それもあるけど、お前は私のリヒテンラーデ一族に優れた遺伝子を供給してくれたわ。私一人では一族の血を繋いでいくことはできないもの。お前の子供達は皆賢くて美しいわ。私は、私自身の高貴な血をより完璧な形で残したいの。お前はそれによく貢献してくれたわ」
「俺はお前の種馬ってわけか?」
ロイエンタールは、何故か怒りを感じていなかった。
それどころか、ここまで言い切る目の前の高慢な女に対して、一種の小気味良ささえ覚えていた。
「そんなところね」
「では、子供もいいかげん増えたことだし、そろそろお役御免というわけか」
「いいえ。まだ足りないわ。私の子孫の誰かが、いずれ至尊の冠を戴くには、より多くの可能性を残しておきたいの。お前は私を無理矢理犯した罪を一生かけて償うのよ。だから私が許すまで、私の血を残す手伝いをしなさい」
「つまり、今まで通りお前を抱き続けろというわけか」
「そういうことになるわ」
それだけ言うと、エルフリーデは、部屋を出ていった。
「随分と甘い量刑だな。フロイライン」
閉まる扉に向かって、ロイエンタールは再び冷笑しながら呟いた。

コメント一覧

べる (08/06 00:10) 編集・削除

くっそ!
ロイエル(いや、エルロイ)が甘いぜ!
目が覚めちったw

ごん (08/06 00:22) 編集・削除

怒涛の更新お疲れ様です。

あちゃー。
控えめな態度が裏目裏目に出とったんですか。
あとから裏を見せるアンリも鬼畜やな。

ちょっとアレクが気の毒になってきました。
末娘の嫁ぎ先は彼かと思ってましたが……。

それはともかく、エルフリーデのロイエンタールへの量刑は死刑→無期懲役に減刑と相成ったようですが、無期刑の方が死刑より残酷だという説もありますね。(余裕かましてるこちらはともかく、某銀凡伝(帝国編外伝)ではそんな感じ(笑))

寝なさいといわれて生返事な長男、次男がとてもリアル。

あと、頑張れケスラー。いろんな意味で。

私も夜更かししてないで寝ます。では

葉子 (08/06 00:48) 編集・削除

>>お前の子供達は皆賢くて美しいわ
>>だから私が許すまで、私の血を残す手伝いをしなさい
すごい、なんという高飛車で熱烈な愛の告白。エルフリーデたん、惚れ直したよ。そしてロイエンタール超頑張れ(爆)

幸せなロイエルが見れたので安心して寝まーすwww
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長男:「…サッカーチームかよ!」

Jeri (08/06 13:44) 編集・削除

>べるさん
当人達はちっとも甘くないと思っているロイエルですw
この会話、思春期の子供達の誰かがもし立ち聞きしてしまったら大変なことになりそう。

>ごんさん
二人揃って恋愛音痴で噛み合わなくて不幸になってしまったライヒルって感じですね。
あの二人は、互いに「知らない方が幸せだった」ことが多い夫婦で、原作通りラインハルトがあそこで死んで、極端に短い結婚生活だったからこそ、二人とも互いのいい思い出だけ残せたのではないかと思ってます。

>葉子さん
ヒルダにも貴族令嬢として、このくらいの開き直りができたら、もっと違った人生送れたのではと考えてしまいます。
あ、それから、エルのロイと子供達に対する呼称に気付いて頂いて嬉しいです。

フェリ他の自分の産んだ子達→高貴な血筋の私が産んだ子なのだから、「あなた」
ロイ→下賎な下級貴族の男だから「お前」
※ロイも伯爵令嬢の母親から生まれたという事実は、華麗にスルー。思考停止。以上。

ここまで傲慢だともう何も言う気がしないロイロイ。
でも、エルはそれでいいと思っているw
フェザーンの医学だと卵巣を若返らせる技術(?)などで、50代前半まで出産が可能という設定なので、サッカーでもラグビーでもアメフトでもこうなったらどんとこい!なロイさんwww

ミミ (08/06 19:00) 編集・削除

エルとロイの会話 面白いですね。何だかんだで ちゃんと愛し合ってるし。あとエルがちゃんとお母さんしてる所がホノボノ。
で 一方ヒルダ側。山荘の件、宮内尚書と侍従長 片手落ちだよ。そんな思惑があるのならラインハルトだけでなくヒルダにも根回ししとかなきゃ。後宮のパワーバランスの話をしてから国家の安寧の為にどうか陛下の要請はお受けになりますようにって頼めば良かったんだよ。もう気が効かないな!それからヒルダパパとヴェストパーレ男爵夫人 あんたらもそれぞれの立場で両陛下にアドバイス出来たんじゃないの?と訊いてみたくなりました。
ちょっと熱くなりました。失礼しました。今後この内戦どうなるか楽しみです。ロイはローエングラム王朝の信頼がどうのこうのと心配してましたが。心配ご無用。摂政皇太后の恐怖政治に震え上がった人々が帝国全土の平民も含まれるのなら、国民はとっくにローエングラム王朝に見切りをつけてるから。と 言うより帝政 専制君主制に懐疑的になってるよ きっと。と云うわけでこの内戦はこれからの帝国のありかたまで左右されるものになりそうですね。

Jeri (08/06 22:10) 編集・削除

>ミミさん
どもです。
>宮内尚書と侍従長 片手落ちだよ
はい。私も書いててそう思いました。
ラインハルトも、いくらなんでも15年間もあんな信念が正しいと信じていたとは考えにくいし、どっかで見かねて誰かが教えたけどやっぱりダメだったという状況設定をつくる為のストーリー上の都合でこうなってしまいました。
まあ、現代でも宮内省は、皇室の方々の下半身問題に関してはなかなかはっきりと言いにくいみたいですので、男の尚書と侍従長にしてみれば、女性のヒルダに直接進言しにくかったので、皇帝にだけとなってしまいました。
元々この二人は、アンネローゼの友人がシャフハウゼン子爵夫人だった縁で、政治的野心のない善良さだけが取り柄で採用された人達なので、気が効かないのはしょうがないと思ってやって下さい。
ラインハルトはこの役職に有能さよりも誠実さを求めていたので、宮内尚書も侍従長も忠義者だけどあまり機転が効かない人物なのでこうなってしまったという解釈にしておいて下さい。もう少し気が利く有能な人だったら、仰るように、ヒルダの信頼している女官とかヴェストパーレ男爵夫人当たりを通して根回ししたのかもしれません。

>帝政 専制君主制に懐疑的になってるよ
私も普通に考えればそうだと思うのですが、それならラインハルトが即位した時、いかに国民にとっていい政策を行なっていようと、「また帝政かよ」という声が帝国内から出てきても良さそうなものだと思うんですよ。
それが全くなくて「ジーク・カイザー」でしたから、この世界の帝国人にとっては、帝政打破とか立憲体制に移行という概念は、まだ育っておらず、皇帝(摂政皇太后)が悪ければ、今度はもっとマシな皇帝に統治されたいという考えなのだろうと思われます。
ともあれ、これである程度「世襲の弊害」みたいな問題意識は芽生えると思われますので、内戦後は、何十年後かの立憲君主制へ向けての準備に入るかもしれません。

葉子 (08/06 22:43) 編集・削除

>>ラグビーチーム目指して頑張れ(サッカーとアメフトは11人でしたw)
ロイ×エルのスーパーコピーが15人とか!眩しすぎてきっと目がつぶれる☆大家族モノで番組が出来ますよ。
『華麗なる一族・ロイエンタール家』、馴れ初めは国家機密(キラッ☆)

>>甘い量刑
嫌よ嫌よも好きのうち…。次の官能小説はこちらでwww

※過去コメのダイアナ妃、雅子妃そしてヤワラちゃん、激しく同意です。特に雅子妃は愛してないなら愛してないなりにうまくやりゃあよかったのにと思わずにはいられない。みんな相思相愛に憧れ持ちすぎでしょ…。

非公開 (08/07 00:39) 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

Jeri (08/07 00:45) 編集・削除

>葉子さん
あの好き者ロイの相手を15年もしてられるエルの体力は、実は五輪のマラソン選手並みで、15人くらい全然平気で産めるってなったら、ほんとにラグビーチーム作って「スクール・ウォーズ銀河帝国版」とかドラマができるかもww

雅子妃って、お勉強はできるけど、ちょっと周囲の空気読めなかったり、意外な常識がわかってない典型的な偏差秀才なのかもしれないと、同じく偏差値秀才に挟まれて育った凡人の私は想像したんですよ。
当たってるかどうかはわかりませんが、最近の週刊誌の見出しを読むだけでも本当にもう少し何とかならんかったのかなぁと思わずにいられないです。

リセット-寂寞の皇后-(10)

場面は再び変わり、キル子が寵姫になって第一皇女を出産した直後の皇宮の一室だった。
電子カレンダーが8月15日を示している。
この日は毎年、ラインハルトは、皇宮の一角に特別に作らせた部屋に午後から半日程篭って、ヴェスターラントの犠牲者を供養するための祈りを捧げる。
これも、後でキル子の提案だったと知った。
ヒルダは、せっかくあの件から立ち直った皇帝に対して、余計なことをすると思ったが、当時は黙っていた。
せっかく私がよい言葉でお慰めして、立ち直って下さったのに、それをまたわざわざ抉り出すような真似をするなんて…陛下がお気の毒だったわ。
部屋には、キル子がまだ生後数か月の皇女を抱いて一緒にいた。
「この子と同じような赤子も、核の熱で一瞬に焼かれたのだな…」
ラインハルトが、首が座ったばかりの娘のすべらかな頬を撫でながら、悲しそうに言う。
「はい。そうですラインハルト様。ヴェスターラントの200万人の中には、この子よりももっと小さな赤子もいれば、幼児も老人もいたはずです。貴方様が救援を送っていれば、助かった命でした。たとえ貴方様が、改革によりその一万倍の命を救ったとしても、彼等の命は還りません」
「そうだな。俺の罪は、そんなことで消えるものではないな」

なんてことを言うの!
あんなに苦しんでおられる陛下に対して、この女はなんて無神経なのかしら。

ヒルダは、キル子に対する怒りに震えた。
だが、当のラインハルトは、キル子から皇女を受け取ると、小さな手に自分の指を掴ませた。
皇女は、父親より少し濃い目の金髪を持ち、母親と同じ鮮やかな青い瞳をいっぱいに見開いて父親を見ていた。
優しげな顔立ちが、伯母のアンネローゼによく似ている。
その様子に目を細めながら、ラインハルトはしっかりと前を見据えた。
「キル子、俺は一生、ヴェスターラントのことを忘れてはいけないのだな」
「はい。ラインハルト様。ヴェスターラントの虐殺に対して、ラインハルト様がお心を痛めておいでなら、どうかその痛みを一生背負って生きて下さい。それが、統治者の覚悟というものではないでしょうか」
なんてことを言うの!
ヒルダは怒りで頭が沸騰しそうだった。
あれほど後悔しているラインハルトに、更に追い打ちをかけるとは。
しかも、無学な平民女のくせに、さかしらに陛下に向かって帝王学を唱えるなんて。
実際には、キル子は、寵姫になってもフェザーンの大学を退学せず、優秀な成績で卒業したので、決して無学ではなかった。
ヒルダもそれを知らないわけではなかったが、完全に理性を無くしていた。
「ラインハルト様が、ご自分のしたことを受け入れ、生涯背負うお覚悟でいることが、ヴェスターラントの遺族にとって何よりの慰めです。そして、ラインハルト様が背負う重荷は、妻である私も一緒に背負うのです」

何だろう?この敗北感は…
キル子は、ヴェスターラントの件に関して、ラインハルトに対して自分と真逆のことを言っている。
彼女は、最後までラインハルトを慰めようとはしなかった。
それどころか、自分のしてしまったことを認めて一生背負えと言う。
そして、ラインハルトは、キルヒアイスを失い、改革によって多くの人を救った自分は、既に免罪されていると言って慰めたヒルダの言葉よりも、より過酷な道を歩むよう促すキル子の言葉に従う決意をしたようだ。
それは、天才軍略化でありながら、一部精神が子供のままだったラインハルトの、人間として、為政者としての著しい成長の証だったのだが、キル子への嫉妬心で頭がいっぱいのヒルダには、それが理解できなかった。

なぜ?
なぜラインハルト様は、私よりもその女の言葉をきくのですか?

場面は三度変わり、いきなり全裸のラインハルトとキル子が御用邸の寝室で重なり合う姿が浮かび上がる。
ヒルダは、目を閉じたくても体が動かない。
皇帝と寵姫は、皇宮から離れた解放感の中で、大胆に抱き合っている。
ヒルダは、目の前で繰り広げられる夫と寵姫の交わりを、ただ見ているしかなかった。
キル子は、寵姫に迎えられたばかりの頃は、まだ幼さの残る固い蕾のような少女だったが、成人し、最初の子を出産したあたりから、肉感的で男好きのするタイプの女性へと変貌していった。
細身だが、女性としてはかなりの長身なのは、親族のキルヒアイス譲りなのかもしれない。
ヒルダに忠実な廷臣や女官達の中には「まるで商売女のようだ」「下品だわ。皇帝陛下に相応しくない」「やはり平民の女は品格に欠ける」などと言って、そんなキル子を蔑み、暗にヒルダを慰めようとする者もいたが、既に皇帝との肉体関係のない自分にそんな言葉を言っても無意味であることに気付く者は、この当時はまだ少なかったし、ヒルダ自身は、キル子のスタイルを下品だとは思っていなかった。
それどころか、まるで、フェザーン人のモデルにもひけをとらない美しい肢体は、4人の子を産んでも線が崩れることはなく、女として羨ましく思えた。
キル子のすべらかな白い肌に、大きな乳房をラインハルトは気に入っているらしく、両手で揉みしだいていた。
ラインハルトは、ヒルダには見せたことのない男の顔で、キル子の白い身体を組み敷き、全身を丹念に唇で愛撫している。
それは、あの夏の終わりの夜のぎこちなさとは別人のようだった。

いや!
願い、やめて!
陛下! 陛下! こちらを見て下さい。
陛下をずっとお慕いしておりました。
私も陛下のご寵愛を受けるのをずっと待っておりました。
私だってまだ陛下のお子を産めました…
なのに、あなたは、寵姫を迎えることが私と寝台を共にすることを終えることだと考えました。
私はそんなつもりはなかったのに…
たとえキル子の何分の1でもいいから、陛下の愛を頂きたかった…
そうすれば、こんな女にならずに済んだのに…

自業自得じゃない?
イヤなら最初から寵姫なんて薦めなければよかったのさ。
そうすれば、あの潔癖症のカイザーは、一生あなた以外の女に触れなかったよ。
まあ、キル子よりも極端に回数少なかったろうから、子供もそう多くなかっただろけどね。

あなたはいったい何者なの?
陛下の寿命を延ばして下さると聞いた時は、大神オーディンのお使いかと思っていたけど、今は悪魔にしか思えないわ。
返して。私の人生を、私のラインハルト陛下を返して!

悪魔とは、これはまた過分な評価を頂き光栄至極ですな。
でも、残念ながら僕は悪魔でも天使でもない。
強いて言えば、「時の番人」ってとこかな。
あ、返してと言われても無理。
だって元々カイザーはあなたのものじゃないから。

そして、またあの忌まわしいケタケタという哂いが響く。

キル子によって女体の魅力に開眼したラインハルトは、皇宮では憚られるような大胆さで、直視できないような恥ずかしい恰好をキル子にさせては楽しんでいた。
それはもうヒルダの知る性には晩生で、初心な青年のラインハルトではなかった。

「カイザーリン。こんなところで何をしているのだ?」
ヒルダの存在に気付いたラインハルトが、ふと手を止めて振り返った。
「陛下!」
やっと気づいてくれた夫の口から出た言葉は、しかし、ヒルダの期待を大きく裏切った。
「カイザーリンには出立前に、来月の閣議での演説の草稿を仕上げておくよう頼んだはずだが?もう出来上がっているのか?」
「いいえ…まだ…」
ヒルダは、そう答えるのが精一杯だった。
「そうか、ならば予が戻るまでに必ず頼む」
そう言うと、再びヒルダの存在など忘れたかのようにキル子の身体に没頭し始めた。
ヒルダは、その場に立ち尽くしたまま、動くこともできず、目を閉じることもできず、ただ二人の交わりを見ているしかなかった。

「今年も白状しない気か?キル子」
愛撫の手を休めることなく、ラインハルトは寵姫に向かって尋ねる。
「…は…い…ござい…ません」
キル子は、やっとの思いで声を絞り出していた。
どうやら、彼女の「欲しいもの」は、未だに不明らしい。
「強情な奴だ。それでは今年も俺はまた変わり映えしないものでしか、お前の誕生日を祝えないではないか」
「…それで…じゅ…うぶん…はっ、うっーーーーー!!」
突然、キル子の身体が大きく飛び跳ねた。
ラインハルトの唇が、キル子の最も敏感な部分に触れ、強く吸い上げたのだ。
目を閉じることのできないヒルダは、嫉妬と怒りで体が燃えた。
「あっ…あ…ライン…ハルト…さま…もう…もう…お…ゆるし…を…」
キル子は薄らと涙を浮かべながら懇願したが、ラインハルトは、今度は彼女を軽々と膝に抱きかかえ、既に限界まで屹立している彼自身をキル子の入り口に充てがった。
しかし、それでもまだ挿入を焦らすラインハルトに、キル子は身を捩って逃れようとしたが、しっかりと抱きしめられたままの上半身はびくともしなかった。
ラインハルトの愛撫は、既に相当に長い時間続いていた。
ヒルダは、何時の間にか、自分の夫が別の男になってしまっていたことに気付かされた。
「いや…ラインハルト様…いじわる…もう、いや…いやです…」
すすり泣き始めたキル子に、先に降参したのはラインハルトの方だった。
ラインハルトは、キル子の腰を抱いて引き寄せると、ゆっくりと自身を彼女の内部に沈めていった。
キル子の唇から、ヒルダが聴いたこともない淫らな声が漏れると、ラインハルトは、そのまま熱い眼差しでキル子の形のいい胸が上気するのを視覚で楽しみながら、腰を打ちつけていった。
「どうだ?まだ言うつもりはないか?」
ラインハルトは、一旦、少し引き抜いて尋ねる。
「言わなければ、このまま終わらせるぞ」
彼の台詞とは思えないような艶のある口調で、ラインハルトは寵姫の耳元で囁いた。
キル子は、既に失神寸前だった。
「…あぁ…ラ…イン…ハルト…さまが…」
キル子はやっとの思いで、言葉を発していた。
「ん?俺がどうした?」
再び深く挿入しながら、ラインハルトは訊く。
ラインハルトは、今度は抱きかかえていたキル子の身体をゆっくりと横たえると、再び激しく彼女の内部を掻き回した。
広い寝台の上に散らばる無数のクッションが、キル子の腰の下を支え、二人の結合をより深いものにした。
キル子は、立て続けに何度も達してしまい、寝台を覆う天蓋に、嬌声が響いた。
ラインハルトは、再びゆっくりと身を引き、キル子に自白を迫った。
「全部、全部欲しいの。ラインハルト様が全部欲しい!ラインハルト様の全部が欲しいのっ!」
最後の力を振り絞るようにキル子が叫んだ瞬間、ラインハルトは再びキル子の最奥に身を沈め、更に力強く自身を打ち付け、彼女の身を揺すった。
キル子は涙声で快楽を訴え、皇帝である男の身体に、爪が食い込む程強くしがみ付いた。
「わかった。お前の欲しいものをやる」
そう言うと、これまで以上の情熱でキル子の内部を掻き乱した。
キル子は、自分の中にマグマを吹き出しながら、噴火寸前の状態の火山が突き上げてくるような感覚を覚えていた。
ラインハルトが更に強くキル子の身体を抱きしめ、戦慄いた瞬間、キル子は本能的にラインハルトの腰に絡めた足に力を込めると、彼女の内部で力強い爆発が起こった。
胎内が熱く燃え、キル子の絶叫が部屋中に響くと同時に、彼女の身体が数回痙攣すると、その閉じられた瞳から涙が溢れた。
無論、それは悲しみの涙ではない。
それを見せつけられていたヒルダの瞳からも、何時の間にか流れ出ていた涙とは対照的だった。
満足して果てたラインハルトは、まだ最愛の妻の中にいた。
「やっと、言ってくれたな」
ラインハルトは、放心状態のキル子の上から、汗で額や頬に張り付いた髪を払ってやると、先ほどの激しさとはうって変った啄むような口づけを何度も繰り返した。
「ラインハルト様…」
だんだんと意識がはっきりしてきたキル子は、とうとう言ってはいけないことを言ってしまったことを後悔していた。
「お許し下さい…お許し下さい…身の程も弁えず…」
懸命に詫びるキル子に、ラインハルトはまだ身を離さずに囁いた。
「何を謝ることがある?俺はずっとお前のその言葉を待っていたのだ。皇帝としての俺は帝国のものだが、ラインハルト・フォン・ローエングラムという一人の男はお前だけのものだ」
「ラインハルト様…」
キル子の上気した顔に、笑みが漏れた。
「だから、この命が尽きるまで、いや、尽きた後も俺と一緒にいて欲しい。俺が、それ程長く生きられないかもしれないことはお前も知っての通りだ。だから、死んだら俺の墓は、オーディンのキルヒアイスの眠る墓の近くに作るつもりだ。その時、お前の場所も作っておくから、二人でヴァルハラで待っていることにする。承知してくれるな?」
「はい。もちろんです。ラインハルト様…あなた…」
キル子は、幸せそうに眼を閉じた。
皇后以外で皇帝と同じ墓で眠ることが許される。
寵姫にとって至上の名誉であるが、キル子にはそんなことよりも、ラインハルトが自分を来世も共にする伴侶として選んでくれたことが、何より嬉しかった。
「…今、また、貴方様のお子を授かりました…」
目を閉じたままのキル子が、小さいがしっかりとした確信を持った声で言った。
「なぜわかるのだ?」
ラインハルトは、まだ彼女と繋がったままで、半信半疑で尋ねた。
「はい。私にはわかるのです。今、確かにラインハルト様の愛が私の中に宿ったのが、私には確信できたのです」
「そうか。キル子がそう言うなら、そうなるのだろうな。うん。きっと、いや、ぜったいそうだ。俺とキル子の子がまた産まれるのか」
そう言ったラインハルトは、少年のような顔で喜び、再びキル子に深い口づけを贈った。
皇帝の子が生まれるのは、国民的な慶事だが、残り少ない命を予感するラインハルトには、ただ愛する女性との愛の結晶が宿ったかもしれないことが純粋に嬉しかった。
『平民出の寵姫が、分を超えていると非難されてもいい。残り少ない人生かもしれないこの方の命を、私は出来る限り多く繋いでいこう。それが、私がこの方にして差し上げられる数少ないことの一つなのだから…』
ラインハルトの黄金色の髪を母のような仕草で優しく撫でながら、キル子はそう決心していた。
そして、彼女の言葉通り、皇宮に帰って数日後に早くも懐妊が判明し、翌月には胎児の週齢と共に、全国民に向けて皇帝の第6子男児が来年6月下旬に誕生することが発表された。
早速、庶民の下世話な噂話から端を発し、出産予定日や週齢から逆算すると、第二帝妃は御用邸での静養中に懐妊されたに違いないという話でもちきりになった。
特に、皇室のプライバシーには遠慮がちな帝国人と違い、フェザーン人はこの手の話題にも躊躇せずニュースにするので、翌年のラインハルト在位10年の日に誕生した第三皇子レオンハルト・ジークフリードは、あの御用邸で「誕生」したということが確定事項になっていた。
そして、いつしかラインハルトとキル子が、滞在する度に激しく愛し合ったこの山荘は、そこで授かった第三皇子の名に因んで「レオンハルト山荘」と呼ばれるようになった。

コメント一覧

非公開 (08/05 15:35) 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

葉子 (08/05 16:02) 編集・削除

(10)の後半見た時、Jeriさん暑さでどうにかなってしまったかと思いました(すみません)。

ここまで無敵キャラになってしまうと、正直「もう何も言えねぇ…」(古っw)。

tama (08/05 18:02) 編集・削除

はじめまして。いつもこっそり見ているだけだったんですが、本シリーズのあまりの面白さに、つい…^^
不思議なことに、同性としてキル子に全く魅力を感じず、彼女へのどす黒い嫉妬の炎でメラメラなヒルダの方が、無性に可愛く思えてしまいます(見事、jeriさんの術中にはまっている気がします…)。気づいて、気づいて、と必死にラインハルトに尻尾を振って、ことごとく空振りな彼女、女としてどうしても共感してしまうんです。
これから一直線に坂を転げ落ちていくであろう彼女を、最後まで見守りたいと思います。楽しみにしています!

※ 私もラインハルトの相手役には、ヒルダは何だかなあと思いながら原作を読んでいました(嫌いじゃないんですが、理屈臭いカップルで、正直全然萌えなかったです…)。年上で、ラインハルトに突っ込み入れられるような、豪快な女性(フェザーンの女傭兵とか)を妄想したりとかしてました^^

すみません、長くなってしまいましたが、今後もずっと応援していますので、お身体に気をつけて頑張ってください!

ミミ (08/05 18:39) 編集・削除

夜中の更新お疲れ様です。寝不足になったりしてませんか?体調にはくれぐれも気をつけて下さいね。
(9)(10)と また新たな展開で目が離せません イヤア 面白いです。いくら知謀に優れたヒルダでも こうなるとは予想してなかったでしょうね。何が不幸って リセットしなきゃ知らないで済んだ自分の中にあるドス黒いモロモロの感情の存在を認めざるを得ない事。つまりキル子に対する嫉妬心以外の保身や優越感や偏見などの感情はリセットする前から実は心の中に育てて来てた事。自分はクリームバターの女の子となんら変わりは無い事。これを認める事はヒルダには辛いでしょうね。でも これを認めなきゃ前に進めないしね。ガンバレ 黒ヒルダ 苦しかったのはあんた一人じゃないんだよ キル子もまた同じように苦しかったんだよ。と エールを送りたいです

べる (08/05 21:20) 編集・削除

修道女のように清らかだった原作ヒルダたんの方がはるかに幸せな件。
リアル世界でも、
恋愛にむかない、
恋愛しない方がはるかに、清く正しく生きていける人達がいるよな…と、
ちょと過去を思い出して遠い目w

(恋愛を通じて強く賢くなる人ももちろんいるけどさっ)

どっちが優れてるとかじゃなくて、ね☆

Jeri (08/06 13:26) 編集・削除

>葉子さん
いえ、官能小説にもチェレンジしてみようかと思いましてwww
子供達の生年や年齢、ちゃんと整理して書いていなかったので、かなりいいかげんです。
終了後に全部見直して修正しようと思ってましたので、助かりました。ありがとうございます。

>tamaさん
はじめまして。
>同性としてキル子に全く魅力を感じず、彼女へのどす黒い嫉妬の炎でメラメラなヒルダの方が、無性に可愛く思えてしまいます

やっぱりww
そうなんですよ。
ヒルダって今まで原作の意図するキャラに忠実な人格者に書けば書くほど萌え要素のないキャラになってしまうことに気付いて、ハーレクイン版の通称「白ヒルダ」の描き方に苦労していたんです。
キル子は、名前からして全く思い入れがないことはお判りいただけると思います。
「黒ヒルダ」と対照を成すキャラならなんでもよくて、モデルは、昔日曜日の夜に放送されてた「世界名作劇場」の女主人公みたいな「ありえねー」な優等生。
しかし、ヒルダってこうまで性格壊したり、不幸要素を負荷したりしないと萌えキャラ化しないのかと思うと、あらためてよしりんに、もっと何とかならんかったのかと言いたいです。

>ミミさん
ヒルダ不幸路線を書いた途端に、この反響の多さにビックリしてます。
やはり今まで悶々としていた人がそれだけ多かったということなんでしょうか?
やっぱり完璧過ぎるキャラって、どこかで読み手から「あんただって少しは欠点あるでしょ」「少しは不幸になれ」「苦労してみろ」って思われてしまうのかなと改めて思いました。

>べるさん
既に仏教もキリスト教もない銀英伝世界ですが、ヒルダが修道女のようというのはまさにピッタリの表現だと思いました。
(当時)DT作家のよしりんの願望の集大成だったのか、女知らんからああゆう風にしか書けなかったのか?
ヒルダは、確かに、恋愛などというものを知らないで一生を終える(実際に原作はそんな感じ)の方が幸せな人の典型ですね。

リセット-寂寞の皇后-(9)

ヒルダは、真っ暗な空間に一人浮かんでいた。
『これは夢なんだわ』
そうわかっていても、感覚だけは妙にリアルだった。

あーあ。だから言ったじゃない。
リセット後の世界があなたが思い描く世界とは限らないって。

その声は…?
もしかして…

そう、あなたのご要望にお応えして、カイザーが15年長生きできるようリセットしてあげた者さ。
どう? 夫と過ごす充分な時間ができた感想は?
しっかり夫婦愛を確認できたかな?

そう言った後で、声の主は、ケタケタと嗤う。

そんなわけないでしょう?
リセットしたせいで、あんな女が現れて、私の人生は滅茶苦茶だわ。

滅茶苦茶にされたのは彼女の方だと思うけどな。
でも確かに、リセットなんかしなければ、旦那もあなたを愛していないことに気付くこともなかっただろうし、あなたも残虐行為に走ることもなかったのにね。
ま、彼女別にあなたを恨んでないし、今はヴァルハラでカイザーやらその親友の赤毛の兄さんやら、殺されちゃった子供達やらと一緒に幸せにしているから、別にいいみたいだよ。

恨んでないですって?
そんなはずがないでしょう?
あれだけのことをされて恨みもしないなんて、やっぱりあの女は大した偽善者だわ。

だが、ヴァルハラという言葉がヒルダに重くのしかかる。
そうだ。私は、将来死んでヴァルハラへ行ったら、ラインハルト帝に何と言い訳しよう。
…いいえ、違うわ。私はあの方の残した帝国を引き継いで、ローエングラム王朝を盤石にするのよ。
あの方は、私を誰よりも大切な人だって…誰よりも必要としていたと言って下さったわ。あの女の方こそ、本来私達の間に入ってくるべき人間じゃなかったのよ。
そうよ。これは何かの間違いだったのよ。

ふーと呆れとあきらめが混ざった声が聴こえる。

本当に相変わらず自分の都合のいいようにしか考えていない人だね。
オーベルシュタインがいたらなんと言うか…

ヒルダはその言葉に慄然とする。

もしかしたら、陛下はヴァルハラでもあの女に誑かせれて、あの女と一緒に私のことを責めるの?

ヒルダはそれだけが不安だった。

その心配はないよ。
ヴァルハラでは、殆どの魂が現世の負の部分は忘れて、転生の準備に入っている。
従って、カイザーはもうあなたのことは覚えていない。

なんですって…!
あの方の心には、もう私は存在すらしていないの?
どうして? どうして?…
陛下はやはりヴァルハラでもあの女の方がいいの?
あの女は、なぜあんな目に遭っても穏やかにヴァルハラに行けたの?

ヒルダにはどうしてもそれが納得できなかった。

彼女は確かに辛い目に遭ったけどね。
でも、現世であなたなんかとは比べ物のならない価値あるものを手に入れることができたのさ。
その満足感が憎しみを上回った。
この世は全て計算で成り立ってる。
人の命も幸福度も、全て足し算と引き算で決まるのさ。
あなたもそう言って、まんまと女も世間の知らなかった初心な皇帝をたらしこんだんじゃないか。

何のこと?
それに、あの女が手にした私でさえ及ばないものとは、いったい何?
私はあの女よりも美しく賢く生まれ、あの女よりも高い身分に生まれ、あの女よりもラインハルト陛下のお役に立ってきたわ。

ふふっ…そう思っているのなら、見てみるがいいさ。
我々異界の者にとっては、どうでもいいものだが、人間には時にどんな権力や富よりも魅力的らしい。
人間は、それを「愛」とも「快楽」とも呼ぶ。
ま、実物再生映像ってとこで、どうぞ。

そこで、いきなりヒルダの目の前に、見慣れた木造建築の建物が現れた。
大きいが、ローエングラム王朝の質素な体質に合わせて、特に豪華さはない。
一見、皇室の御用邸とは思えないような素朴な建物である。
夏の間の皇室御一家の避暑と、持病を持つラインハルトの療養用に、在位7年目に建てられた。
建物は質素だったが、周辺には職員用の官舎や、オーガニックでの食物栽培や牧畜場なども作られ、周辺地域が、辺境惑星からの出稼ぎ労働者が多い地域であることから、彼等の雇用の確保の目的もあった。
この山合いの山荘は、当初は別の正式名称が付けられる予定だったが、結局名前は付けられず、単にその地域の地名をとって「○○御用邸」と呼ばれていた。それが、ある時期を境に、国民の間で自然発生的に、『レオンハルト山荘』の名で呼ばれるようになり、現在ではすっかりその名が定着している。
レオンハルトとは、暗殺されたラインハルトとキル子の第三皇子、レオンハルト・ジークフリードの名で、ラインハルト即位10周年のまさにその日に誕生した運命的な子だった。
ヒルダは、完成当初、一度だけラインハルトに、夏季休暇時を利用して一週間ばかりアレクとの3人での滞在を打診されたことがあった。
しかし、そろそろ初等教育を始めるアレクの出来が、ヒルダの期待を大幅に下回るもので、焦りを感じていた時期だった。
知能は決して低くないものの、どうしても集中力が途切れがちで、怠け癖が強かった。
このままでは、将来後継者の立場が危うくなることを恐れたヒルダは、特別講師陣を編成し、バカンス期間を利用しての集中補習授業を計画していた。
「お気遣いありがとうございます。陛下。しかし、私はアレクの勉強を見てやらねばなりません。今回のご静養は、どうか大公妃様と、第二帝妃と子供達をお連れになって下さい」
と言い、またしても「よく出来た正妻」を演じてしまった。
本音を言えば、ヒルダはここでラインハルトが再度、そんなものより自分と過ごすことを優先しろと言えば、従うつもりでいた。
しかし、ラインハルトはヒルダが一度断ると、それ以上勧めることなくあっさりと承知し、キル子と当時まだ幼かった3人の子供達とアンネローゼを伴って、一般労働者がバカンスを終える8月下旬に避暑に出かけた。
以来、ヒルダはこの山荘を一度として訪れることはなく、毎年皇帝と大公妃と第二帝妃と年々増えるその子供達が夏季の静養に一週間ほど滞在することが定着していた。

「ここなら旧王朝からの口うるさい古株女官も、いつも部屋の外で待機している警護の親衛隊もいないからな。キル子も思いっきり羽を伸ばせるぞ」
「まあ、それはラインハルト様の方ではありませんか?」
視線を交わして微笑し合う二人。
駆け回って喜ぶかわいい子供達。
どうやら初めて山荘を訪れた時の映像を見せられているようだ。
「それより、例のものは本当にまだ言わないつもりか?」
ラインハルトが、意外なことをキル子に訊いている。
「はい。一生申し上げるつもりはございません。これは私の墓場まで持って参ります」
「本当にいいのか?来月のお前の誕生日まであと二週間しかないのだぞ」
「はい。私はもう充分に頂いております。これ以上は分に過ぎた願いです。だから口に出すとかえって手に入らなくなりそうで怖いのです。いつかヴァルハラでお会いした時に申し上げますので、どうぞお許し下さい」
皇后であるヒルダの誕生日は、国民の祝日として、国を挙げて盛大に祝うのとは対照的に、第二帝妃であるキル子の誕生日は、いつもアンネローゼの焼いたケーキと、ラインハルトが侍従に選ばせた花束だけで、皇宮のいつもの食堂で、家族のみで晩餐の食卓を囲うのが習慣だった。
キル子はそれについて、全く不満を漏らしたことはないが、ラインハルトとしては、少々申し訳ない気持ちを持っていた。
「予は銀河帝国皇帝だぞ。お前に与えられぬものなど殆どないはずだがな。いつもお前の誕生日はろくなプレゼントもなく、簡単に済ませてしまって、これでも悪いと思っていたのだ。だから今年くらいは奮発して、お前の為の離宮を造営してもいいと思っていたのだ。だが、お前ときたら、そんなものよりも戦災孤児や未亡人達の住宅を建てろと言って逆に俺に説教する始末だ。ではせめて専用のランドカーか小型艦と言ってもいらないと言い、宝石もドレスも必要なものは自分の化粧料で賄ってるのでこれもいらないと言う。少しはフロイライン・コールラウシュを見倣って欲しいくらいさ」
「先日もお話しました通り、フロイライン・コールラウシュの贅沢は、ご自分の為ではありません。私も自分で買ったものの中から少し協力させて頂いております。でも、ラインハルト様に頂いた品を競売にかけるわけにはいきませんから、頂かなくていいんです。指輪と首飾りでしたら、第二帝妃のお式の時に、ご下賜頂いたものがございますので、ずっと大切にしています」
ラインハルトは、ため息を漏らすと、
「お前の頑固さと欲の無さは、難攻不落だな」
と言って、愛妻の額を軽く小突いて見せた。
「いいえ。違います。私は本当はとても欲深い女なんです。それが自分でわかっているので自制しているだけですわ」
「そういうのを無欲というのだ」

嘘だわ。あの女、無欲な振りをして、陛下のご歓心を買って、いつか大きなものをねだるつもりでいたんだわ。
自分の息子を跡継ぎにして欲しいとか、寵愛を笠に私を廃して自分を皇后にして欲しいとか、とてつもない大きなものを手にする為にずっと無欲な女を演じていたんだわ。
ヒルダは、声にならない声でそう叫んでいた。

あれぇ?
他人のこと言えるのぉ?
前の世界でも陛下の歓心を買う為に、いつもいつも中途半端な出兵反対意見を言うだけ言って、点数稼ぎしてたのって誰だっけ?
その点、オーベルシュタインは偉かったなぁ…
嫌われるのも下手したら解任されるのも承知で、キツイこと言ってたから。
あなたに本気であの戦争狂を諌める気があるなら、辞表叩きつけてでも反対してみたらよかったのに。
そうすれば、案外今より愛されてたかもよ。
あ、そうか。
ラインハルト様に嫌われたくないもんね。
適当なところで引いておかないと、永久にあの超美形男の傍にいられなくなって、せっかくのチャンスもなくなっちゃうしね。
なんせ、一目見た時からずっと狙ってたんだから。

バカにしないで!
私は、他のクリームバター頭の貴族娘とは違うわ。
私は、あの方の高いお志と才能に賭けたからこそお仕えしたのよ!

だったら軍人でもないのに戦艦にまで同乗して、その「高いお志」とやらを失って無意味な戦争ばかりやってる男をなぜもっと本気で止めなかったのさ。
まあ、あなた門閥貴族だから、末端兵士に知り合いも親戚もいないし、何人死んでも他人事だからいいのか。

声の主は、再びケタケタと嘲笑した。

それは違うわ。
私はマリーンドルフ一門を背負っているのよ。
大勢の親類縁者やそれに連なる使用人達の生活だってかかっているわ。
簡単に辞任などできないわ。
何も背負うもののない平民と一緒にしないで頂戴。

苦しい言い訳だねぇ。
すると、あなたが秘書官を辞任したら、カイザーは、他のマリーンドルフ一族を粛清とかしちゃうわけ?
そういう人だったのか。

それは…

ヒルダは、返す言葉に詰まってしまった。

いいかげん認めなさいって。
自分が、あなた自身が見下していたクリームバター頭の女達と、そう変わらない単なる美形ミーハーだって。

違うわ。
私は名門マリーンドルフ伯爵家の娘で、新銀河帝国の皇后で、皇太后になった女よ。
どこの馬の骨とも知れない卑しい平民の女達や、ファッションと男にしか興味のない空っぽ頭の貴族娘と一緒にしないで頂戴。
第一、あの陛下に対して、私以上にいったい誰がどうお諫めできるというの?

ははは…
やっと本音が出ましたね。ヒルデガルド陛下。
でも、残念ながらこの人は違ってたようですよ。

目の前に再びラインハルトとキル子の姿が映る。
今度は、また少し時間を遡ったらしく、場所も昔の仮皇宮の一室で、キル子はまだ寵姫になる前で、丁度大公女の称号を授与され、初公務を終えたばかりの頃のようだ。
一転して何やら険悪な雰囲気だった。
ヒルダは、意外に思うと同時に腹が立った。
いくらキルヒアイス元帥の義妹とはいえ、平民の娘ふぜいが皇帝の前での振る舞いではない。
私は一度として陛下に対してこのような無礼を働いたことはなかった。
なんて礼儀知らずな女だろうか。

二人の会話する声が、だんだんと大きくなり、はっきりしてくる。
ラインハルトの「いずれヤンとは決着を付けなければ」云々という声が聴きとれた。
「それ程そのヤン・ウェンリーとかいう人と、艦隊戦術とやらを競いたいのでしたら、最近出来た戦争体験型のテーマパークにでもお招きになってはいかがですか?何でもフェザーン企業のテクノロジーを屈指して作られていて、士官学校に導入されているものを遥かに上回るリアリティで艦隊戦シュミレーションができるそうですわよ」
「何を言う!いかにお前とはいえ、無礼だぞ」
「では、私を不敬罪で罰して頂いて結構です。幸いにも私にはキルヒアイスの両親以外係累がおりませんから。陛下もまさか、かつての隣人だったジーク兄様の両親を連座させるようなことはなさいますまい」
「お前は、どれだけ予の矜持を傷つけたかわかっているのか?キルヒアイスの両親に限らず、予が旧王朝のごとき連座制などという野蛮で前時代的なものを嫌って廃止したことを知らぬわけではあるまい」
「でも、リヒテンラーデ一族は10歳の子供まで連座させられましたわ」
「それは…あの時は、まだ旧王朝の慣例に従ったのだ…」
ラインハルトは、だんだんと語尾が小さくなっていく。
明らかにに彼の方が旗色が悪い。
二人は皇帝と大公女としてではなく、互いに一人の人間同士として、真剣にぶつかり合っている。
最もヒルダを驚かせたのは、従順で大人しいだけに思っていたキル子が、あのラインハルト相手に一歩も引かないのである。
この自分でさえ、秘書官時代は当然のことながら、夫婦となって皇后の立場であった時でさえこのような態度に出たことはない。
「遊園地なら、皇帝陛下の権限で数日貸切も可能でしょう。シュミレーションゲームなら誰も死ぬことなく、思う存分用兵術とやらの優劣を競えると思いますわ」
「戦争を子供の遊びと一緒にするな!」
「皇帝陛下の個人的な趣味の為に、何百万人も人が死ぬよりずっと合理的ですわ」
「お前はそこまで予を愚弄するのか!」
「お気に召さなければ、今すぐ私を不敬罪でお手打ちになさって下さって結構です。幸い私には皇后様とちがって、背負っている一族郎党もおりませんから」
「なぜそこまで自分を危険に晒してまで予に戦争をやめさせようとするのだ?」
ラインハルトが少し冷静さを取り戻して訊く。
「貴方様に、戦争で家族を失う国民一人一人の悲しみが理解できる皇帝になって頂きたいからです。戦艦一隻が沈む度に、どれほどの新しい絶望が生み出されるのか、周囲に士官学校出の高級軍人と、貴族出身の官僚しかいない今の貴方様に、そのことを知って頂きたいのです」
ラインハルトの目に、キル子の姿が亡きキルヒアイスと重なったのが判る。
「お前は、予が末端兵士達のことを考えていないと言うのか?」
そう思われることはラインハルトにとって心外だった。
彼は、将官になって一艦隊を指揮する立場になっても、一兵卒に至るまで自分の配下に気を配ってきたつもりだ。
「はい。今のラインハルト様は、そのお心を亡くしていらっしゃいます。…私の父は、戦艦の砲撃手として徴用されましたが、艦ごと吹き飛ばされたので、お葬式の時、遺体はありませんでした。他の同級生のお父さんが戦死した時も皆同じでした。でも母方の従兄は、奇跡的に半壊した艦から遺体の一部が収容されて戻ってくることができました。下半身がなくて、内臓が飛び出していました。空気が無くなっていく状態で少しの間生きていたらしく、顔が膨張して崩れていて、それはひどい遺体でしたけど、それでも私達平民にとっては、遺体が戻っただけマシだったんです」
ラインハルトは、大きく息をしながら、長椅子に腰を落とした。
「…昔、まだ俺が中尉で、キルヒアイスが准尉だったころ、イゼルローン要塞所属のオンボロ駆逐艦に配属されたことがあってな…」
ラインハルトは、唐突に、中尉時代に1ヶ月程勤務した駆逐艦『ハーメルンⅡ』で起こった事件と、そこで出会った仲間達のことを懐かしそうに語り始めた。
キル子は、長い話を時々相槌を打ちながら、黙って聴いていた。
「俺は、キルヒアイスが死んで、あの頃の気持ちを忘れていたようだ」
そう言ってキル子を見つめるラインハルトの瞳は、ヒルダが今まで見たこともない程悲しげであり、そして、優しかった。
「私は、政治のことはよくわかりませんが、今度の新しい連邦評議会議長という人は、どういう方なんですか?全く話しの通じそうもない人物なのですか?」
この時、同盟では過労で職務遂行が困難になったレベロに代わり、ホワン・ルイがその地位を継いでいた。
「会ったことはないが、実務派で筋の通った政治家だと聞いている。話し合う価値はありそうだ」
キル子の目が嬉しそうに輝いた。
「ならば、きっと仲良くできますわ。ヤン・ウェンリーという人のことだって、彼のことが憎くて殺したいわけじゃないでしょう?」
「ああ、一度会談しただけだが、なかなか面白い男だった。妙な話だが、あの男と戦いたいと言っておきながら、もしあの男が殺されでもしたら、俺は悲しいかもな」
そう言ってラインハルトは再び穏やかな笑顔を見せた。
「じゃあ、決まりですね。同盟とは政体は違うけど、これからは仲良くやっていくということでよろしいですわね?ヤン・ウェンリーという人とももう一度お会いになって、お友達になってしまいましょうよ」
ははは…と今度は珍しい皇帝の明るい笑い声がした。
「お前には敵わないな。お前は凄い女だ。たった数時間で宇宙を平和にしてしまったのだからな」
ラインハルトは、この時はまだ寵姫になっていないキル子の頭を、妹にでもするように、ポンポンと軽く叩いてみせた。

そう言えば、陛下が突然同盟に対して大幅な譲歩の上、協調路線を打ち出したのは、丁度この時期だったわ。
私はご病気のことが判ったので、心境の変化もあって慎重になられたのだと思っていたけど、キル子とこんな話をしていたなんて…
ヒルダは、生まれて初めて絶対的な敗北感を味わった。
今まで、何があろうと政治向きのことでラインハルトに最も影響力があるのは自分だと自負していた。
寵姫を迎えようが、姉をどれほど大切にしようが、彼の最も信頼する政治顧問は自分だという思いは揺るがなかった。
それが、自分が何を言っても考え直す気配すらなかったヤンへの執着を断ち切らせたのが、政治も軍事も素人の小娘だったと知って打ちのめされた。

リセット-寂寞の皇后-(8)

昨日、大本営の皇帝執務室に出頭した時、ミッターマイヤーは、まず、喪服姿のヒルダの美しさに驚いた。
この近年は、ラインハルト帝と夫婦関係がなくなっているとの噂を裏付けるように、枯れた印象があったが、この日見た彼女は、くすんだ金色の髪も伸ばして(フェザーン式増毛法?)帝国貴婦人風に綺麗に結い上げ、以前の美しさを取り戻していた。
それどころか、結婚当初の最も美しかった時期にも劣らない程の艷やかさだ。
それは、まるで権力という養分を吸って咲き誇る毒花のようだとミッターマイヤーは、彼にしては不敬なことを感じていた。
特別に勅命の返答を1日延ばしてもらったものの、彼はまだ決断しかねていた。
ヒルダという一人の女性に対してではなく、亡きラインハルト帝が全権を委任した事実上の後継者を拒絶することへの迷いである。
「まさか、ミッターマイヤー大元帥までが、あのような悪意の噂を信じていらっしゃるわけではございませんでしょう?」
回答を躊躇うミッターマイヤーに向かって、ヒルダが媚態の篭った眼差しで訴えた。
その目を見た瞬間、自他共に認める無骨者が、噂が逆に真実であることを確信した。
ヒルダが言う「悪意の噂」とは、当然、第二帝妃の姦通罪を捏造したことと、彼女の産んだ皇子や皇女達の相次ぐ不審死のことである。
彼の知るラインハルトの皇后であったヒルデガルドという女性は、決してこのような媚びた視線を臣下に向けるような女性ではなかった。
まるで誰か別人が入れ替わってしまったかのようだと、ミッターマイヤーは思った。
「私は、決して噂などを信じて、勅命を承るか否かを決めるつもりはございません。ですが、先帝陛下のお子様達が、ご逝去から1年もしない内に、次々と6人もお亡くなりになるのは、如何にも不自然です」
ミッターマイヤーは、実直な彼らしく、ストレートに疑問をぶつけた。
「それは、私とて同じ思いです。たとえ私の子ではなくとも、先帝陛下の大切なお子様方です。後事を託されながら、それをお守りできなかったことを悔やむ気持ちは誰にも劣りません。…ミッターマイヤー大元帥にだけ打ち明けますが、子供達の死については、今、別の捜査機関に内密に再調査をさせているところです」
冷徹な程に尤もらしく言うヒルダの言葉に、ミッターマイヤーは最早嫌悪感さえ覚えた。ヒルダの言う「別の捜査機関」とは、どうせ彼女のご用機関である「治安監視委員会」に決まっている。
「では、第二帝妃の姦通罪はいかがか? ろくな証拠も取り調べもなしに一方的なご裁断はあまりに大公女がお気の毒でした。しかも、先帝陛下の大切なお子をあんな方法で…」
ミッターマイヤーは、口にするのもおぞましい残酷な刑の執行について、それ以上の言葉が出なかった。
あのキル子が、ラインハルトを裏切って、他の男と密通など有り得ない。
しかし、目の前のヒルダは、身じろぎもせずに言い放った。
「いいえ。ミッターマイヤー大元帥。お間違えのないように。第二帝妃は先帝陛下を裏切っておりました。そして、密通相手の男の子を身ごもってしまったのです。堕胎したのは先帝陛下のお子などではありません」
「それは、確かなのですか? 女官長のルッツ夫人は、胎児のDNA鑑定を求めて聞き入れられなかったと言っていますが?」
ミッターマイヤーは、自然と詰問口調になっていた。
秘書官時代から彼女の立后を願い、成婚後も常に敬意を払ってきた彼が、初めてヒルダにみせる厳しい表情だった。
「そのルッツ夫人も密通を手引きした共犯者です。とはいえ、夫のルッツ元帥は、建国の功臣であり、先帝陛下が信頼された古参幕僚のお一人です。故に、その功績に免じて今回は二人とも皇帝陛下の格別なお慈悲を以って厳罰を避け、その職務の解任に留めました」
なにを!と、飛び掛りそうになる衝動をミッターマイヤーは辛うじて抑えた。
「何の証拠を以って早急に姦通罪と決めつけ、ルッツ夫妻までも連座させられたのか、どうか非才の身の小官にも解るようご説明願いたい」
壁の外にも聴こえる程の声で、怒鳴るように迫るミッターマイヤーに、ヒルダは対照的に無表情で宣言する。
「証拠など必要ありません。亡き先帝陛下から全権を受け継いだこの私が、そう決定したのです。それが全ての真実なのです」
ミッターマイヤーは絶句してしまった。
これは最早、ラインハルト帝の創られたローエングラム王朝ではない。
「摂政皇太后陛下に申し上げます。謹んで、この度の勅命をご辞退申し上げます」
ミッターマイヤーは、直立不動のまま怒りを押さえ込んで宣言した。
しかし、それを聴いたヒルダは、予め答えを予想していたかのように冷静だった。
「そうですか。残念ですが、致し方ありません。ミッターマイヤー大元帥、追って沙汰します。それまで自邸にて謹慎を命じます」
「はっ!」
ミッターマイヤーは、型通りの挨拶を済ませると、ヒルダと目を合わせずに、深紅のマントを翻した。
もう、この女に最期の礼を尽くす気にもなれなかった。
もしかしたら、勅命を辞退した途端に、衛兵に命じて逮捕拘禁、元帥号剥奪というシナリオも想定していたが、先帝崩御から1年強しか経っていないこの時期に、帝国軍の双璧二人を揃って軍から追放するという暴挙を、唐突に行うことによる波紋の大きさが理解できない程には、ヒルデガルド皇太后の判断力は鈍っていなかったようだ。
恐らく、自分を反逆罪とする証拠の捏造や、法的手続きを済ませた後、粛清するつもりなのだろう。
無論、ミッターマイヤーには、そう分かっていてみすみす素直に殺されてやるつもりはない。
こういう時に備えて、愛妻とかわいい子供達の安全は既に確保済みだ。
疾風ウォルフの異名を持つ生粋の軍人は、単なる戦争屋ではない。
それでも、部屋を出て大本営の廊下を歩くミッターマイヤーは、全身に神経を張り巡らせていた。
まさかとは思うが、刺客が狙っていないとも限らない。
しかし、大本営ビルの入口で彼を待ち構えていたのは、今や上級大将となって大軍を指揮下に治めるバイエルラインとドロイゼンの旧知の二人だった。
「閣下!」
と嬉しそうに駆け寄るドロイゼンの笑顔は、士官学校の後輩時代から変わっていない。
「ご家族は既に宇宙港にいらっしゃいます。ビューローが艦隊編成を終了して待機しておりますので、いつでも出港できます」
バイエルラインが耳打ちすると、部下たちの手際の良さに満足して、ランドカーに乗り込んだ。
「卿達の家族は?」
「ご心配なく、既に旗艦の居住区に収容済みです。他の主だった将帥の家族も同様です」「念の為、佐官級以下の家族も、民間船に乗せて安全な場所へ避難させています」
軍一筋に生きてきて、それぞれ10年程前に漸く家庭を持った二人のかわいい部下が代わる代わる報告するのに、ミッターマイヤーは満足気に頷いた。
自分の粛清が、まさか家族にまで及ぶことはないとは思うが、年端もいかないキル子の皇子や皇女までも無残に殺した今のヒルダならば何をやるかわからない。
また、直接危害を加えられなくとも、人質にするくらいのことは充分考えつくだろう。
だから今朝家を出る時、念の為、エヴァンゼリンと子供達には旅支度をして、いつでも家を出られるよう指示しておいたのだった。
「考えてみれば初めてですよ。家族を自分の艦に乗せるなんて。特に息子なんか大喜びで駆け回って、女房が大変です」
バイエルラインが、この緊張感の中で、楽しげな口調で言う。
ミッターマイヤーもそれを咎めなかった。
「実は俺もそう思っていた。うちの子供達はもう大人しくしていられる歳だが、ロイエンタールはさぞ大変だろう」
そう言って、くっくっと笑う帝国軍の双璧の片割れは、不本意ながら6人の子持ちになってしまった親友を思い出していた。
「既に、ビューローがゲルゲングリューンと連絡をとり、合流地点の打ち合わせをしているはずです。久々の大戦で武者震いがしますよ」
そう言って、組んだ指を鳴らすドロイゼンを、ミッターマイヤーは軽く窘めた。
「おい、まだ本格的に艦隊戦になると決まったわけじゃない。ルッツも脱出して後から旧配下を集めて合流してくるはずだ。イゼルローン要塞のワーレンも、こちら側に付いて、いつでも艦隊を要塞から出撃させられるとのことだ。あいつ等は、元キルヒアイスの麾下だからな。おまけに同盟軍までがミュラー艦隊に加勢しているとくる。はっきり言って、こうなると皇太后側に我々とまともに戦える者などいない。そうなれば、戦闘に入る前に、決着が着く可能性の方が大きい。俺としても、手応えのない相手を大勢殺すだけの内戦などしたくないのが本音だ」
「しかし、皇太后側には、まだ5万隻の先帝の直営艦隊がありますし、ビッテンフェルト、ファーレンハイト、メックリンガー、ケスラー等は、未だ明確な意思表示をしておりません。彼等と戦うとなれば、数の上で圧倒的に不利です」
バイエルラインの状況分析に、ミッターマイヤーは一応頷きはしたものの全てに賛成はしかねた。
「確かに彼等は、俺達と違ってキルヒアイスと特に繋がりがなかったせいか、先帝陛下ご存命中から皇后寄りだったし、第二帝妃に対しては否定的だった。特にケスラーの妻は、皇后の元女官でマリーンドルフ家の一門だからな。しかし、いくらあいつ等でも、皇太后の今の専横を見ても尚忠誠を捧げるとは俺には思えん」
「しかし、皇太后は、第二帝妃の姦通罪をでっち上げたことも、お子達を殺したことも認めてはいないのでしょう?ならば、どれ程不自然であろうが、臣下として主君の言葉を信じる道を選ぶというのも考えられます。それに、仮に内戦の末我々が全て粛清されれば、自動的に帝国軍は彼等のものになりますから」
「確かにそう言えんこともないがな。しかし、それでも俺は、ビッテンフェルトもファーレンハイトもそこまで道理を曲げてまで皇太后に忠誠を尽くすとは思えんのだ。彼等とて、先帝陛下の理想や志に心服したからこそ、GB王朝の時代から忠誠を誓ったのだからな。特にメックリンガーのような男にとって、子殺しなど完全に彼の美学に反する行為だ。問題は、マリーンドルフ一門の妻を持つケスラーくらいだろう」
とめどない議論が続く中、ランドカーは、ベイオウルフが繋留されている宇宙港に到着した。
「あなた!」
「エヴァ!」
艦の居住区で家族と再開したミッターマイヤーは、妻のエヴァンゼリンを強く抱きしめた。
彼女の隣には、13歳になる双子の息子と娘と、3人分の大型トランクが運び込まれており、いつでも出発できる体制になっていた。
「私、本当は、一昨日からこの荷物をまとめていたんです。あなたと一緒にこの艦に乗る為ではなく、あなたが勅命を承諾して討伐軍の指揮をとることになったら、子供達を連れて、オーディンに帰るつもりでした。あなたが、あんな狂ってしまった皇太后にまだ忠誠を誓うなら、そんな方とはもう一緒に暮らせないと思ったんです。でも、バイエルライン提督から連絡を頂いて…」
キル子と姉妹のような付き合いをしていたエヴァンゼリンは涙声だった。
「俺がエヴァを悲しませる人間の言うことなんかきくと思うか?」
そう言って微笑を返す夫に、エヴァンゼリンは、必死に笑顔を作ろうとする。
子供たちは、そんな両親の様子をごく日常の光景として黙って眺めていた。
暫くすると、ミッターマイヤーの元に、宇宙艦隊司令部に席を置きながら、長年皇帝一家の侍医団の一人だったエミール・フォン・ゼッレ軍医大佐が現れて敬礼した。
彼も今回の行軍に同行することになっていた。
元々ヒルダの引き立てでラインハルトの従者から軍医になり、そのまま皇室の医師となっていた彼は、つい先日まで皇太后側の人間だった。
その為、キル子の堕胎刑にも立ち合い、彼女の術後のケアの名目で何度か収監中のキル子と会っていた。
エミールは、この残酷な方法の堕胎には最後まで反対したし、ヒルダにも何とか考え直してくれるよう再三に渡り願い出たが、遂に聞き入れられなかった。
手術台に体を拘束され、簡単な部分麻酔のみで、意識のある状態で胎児が生きているまま子宮を摘出されるキル子は、最後まで泣きながらやめてと懇願し続けた。
その様子を直視できず、エミールは18年来の恩人であり、憧憬の対象であったヒルダと決別する決心をした。
エミールは、力になれなかったことをキル子に詫びると、その後も皇室侍医の権限で何度か彼女の独房を訪ねた。
キル子は、記録する機器の無い状況で、後から思えば遺言と思われる言葉をいくつかエミールに託している。
彼は、それを親友だったミッターマイヤー夫人や息子の皇子に伝える為にここに来たのだという。
キル子は、この件が切っ掛けで、ローエングラム王朝が分裂し、内戦状態になることを何よりも恐れていて、それだけは絶対に避けたいと言っていたという。
自身が戦災孤児である彼女は、戦争で一番多く無残に散っていくのは、自分の父と同じ平民の一般兵士であることをよくわかっていた。
そして、こうなった原因は全て自分の思慮の足りなさにあるので、唯一生きている息子には、どうか誰も恨まないで欲しいと伝えてくれるようエミールに頼んだのだという。
「私が、皇后様のお優しさに甘えきって、皇后様のお寂しさやお苦しみを思いやる心が足りなかったのがいけなかったのです。今更お詫びしても遅いですが、本当に申し訳なく思っております」
キル子は、自分に密通の罪を着せて子供達を殺したヒルダに対して、ただの一度も恨みがましい言葉を言わなかった。
それを聞いたエヴァンゼリンは、堪えきれずにわっと夫の胸に縋って泣き崩れた。
「違うわ。違うわ。キル子は何も悪くないわ。だって、キル子を寵姫にするようラインハルト陛下に勧めたのは皇后様ご自身だったのよ。キル子はいつだって、皇后様とアレク様に気を使っていたわ。皇后様がラインハルト陛下と一緒にいらっしゃる時は、できるだけ表に出ないようにして、お子様達にも、アレク様とは身分が違うのだと言い聞かせて育てて…皇后様だって、ラインハルト陛下が亡くなるまでは、快くキル子に妻の役割を譲っていたのに…そんなにキル子が妬ましかったなら、最初から寵姫なんかイヤだと陛下に言えば良かったんだわ。お子様達を産むことだって、いつもお手柄だと褒めていたのに…」
いつも穏やかなエヴァンゼリンが、溜まっていた鬱憤を吐き出すような慟哭を続けた。
ミッターマイヤーもエミールも、そんなエヴァンゼリンを慰めようもなくただ黙って聴いているしかなかった。
「私、昔からあの方に気を許せなかったわ…いいえ、今はっきりわかったわ。私はヒルデガルドという人が大嫌いだった。だから、あなたがあの人を皇妃にどうかと言った時も、はっきり賛成できなかったのよ。門閥貴族に生まれて、上手く立ち回って常に勝者側の立場で他人を見下して、ゲームの駒を動かすように人の運命を決めてしまう人。私みたいな平民の苦しみなんてどうせ理解できない人。あの人にとって、名もない平民の命なんて、虫けら同然なんだわ。陛下に対してだって、いつも中途半端な換言しかしないで結局点数稼ぎだけして…だから陛下にも愛されなかったんだわ。キル子は、立派だったわ。自分の身を削って、陛下に命の尊さを教えた。皇太后の智謀でも政治センスでも陛下のお心を動かすことはできなかったのに、キル子だけが陛下のお心を戦争から引き離すことができたのに…」
聞いていて、ミッターマイヤーは、脳内がぐるぐる回るような気がしていた。
女は女を知っているというが、ヒルダの本性についこの前やっと気付いた自分に対して、誰より近くにいた妻が、本当は20年近くもの間、自分と真逆の思いを抱いていたのかと思うと、改めてこの妻がただ優しいだけの女性ではなく、自分など到底及ばない鋭い感性を有している人物だったことに気づかされた。
「私がいなくなれば、皇太后陛下のお怒りも解けるでしょうから、息子にまで類が及ぶことはないでしょう。だから、どうか息子には兄であるアレク陛下に忠誠を尽くすよう伝えて下さい」
これが、最後に独房を出るエミールの背中に向かって発せられたキル子の言葉だったという。
無論、結果的にキル子が死んでもヒルダのキル子の子への憎しみが無くなることはなく、今回の討伐命令となった。
エミールは意味深な言葉に嫌な予感がして、再び独房に入ろうとしたが、看守はついに鍵を開けてくれなかった。
そして、キル子が房内で首を吊ったのは、その夜のことだった。

コメント一覧

ごん (08/03 00:12) 編集・削除

一番乗り…ですかね。

>フェザーン式増毛法?
いやいやエクステとか。
普段マニッシュファッションな人が、女らしいカッコして、媚を売ったらそりゃ変だと思われまんがな。

ミッターマイヤーにとってラインハルトは命の恩人だから、どうしてもその味方として来たヒルダには門閥貴族とはいえ、評価が甘くなってた、ならざるを得なかったんだと思います。
一番貴族にひどい目にあっているのはミッタだって気がしますけど。
>ロイエンタールはさぞ大変だろう」あ~んどくつくつ笑い
ミッタって時々毒舌家(爆)

ついにベイオウルフまでユリシーズ化……(笑)

エヴァはしっかり者ですね。台詞は作者の意図が大いに入ってる気がうわ何をするやめry

旗色が読めない中にいるビッテンですが、確か1巻で裏でキルヒに庇われてるんですよね。でも本人は知らないかも。

ファー様も動向は読めないけど、ケスラーがいろんな意味で心配。心情的にはミッタと動きたいけど、職務やら縁戚の問題やらで頭抱えてそう。

では

葉子 (08/03 00:53) 編集・削除

ヨメのメシが不味い@戦艦トリスタン

父親「おまえ達、残さず食べないと立派な帝国軍人になれんぞ」
次男「…兄貴、おれミッターマイヤー家の子になりたい」
長男「ダメだ。それはおれの席だ(どうしてカレーをこんなに不味く作れるんだ、おふくろ…)」
--------------------------------------------------
ミッターマイヤーGJ!まさに銀河系軍団(サッカーか!)=双璧+メルカッツ+ヤン提督なら申し訳ないが負ける気がしない。やはり狼は賢かった。
>>喪服姿のヒルダの美しさ
美しさ3割増。危険!実はミュラーだったら危なかった?今更ですが、ヒルダも愛人作って楽しめばよかったのに、とか言っちゃいけませんね。そういうことが出来ないからいっそう苦しいのか、ヒルダたん(涙)。
>>「証拠など必要ありません。…」
黒ヒルダ陛下キター!たまらん…!悪女、嫌いじゃないので…。あと、このエヴァ覚醒しましたね。

今回の目玉)あのバイエルラインが結婚!!!

葵猫 (08/03 09:03) 編集・削除

ロイエンタール家は俺の代で終わりだ、っての、今や親しい人達の間では、お笑いのネタなんでしょうねw
でもいいんですよね、幸せになったもん勝ち!
エルちゃんも、なんだかんだで17年、血族増えて、華麗に貴族のお嬢様らしく目的も着々達成だし、ミッタ夫妻も、部下二人も順調、ヒルダ以外はみんな幸せな気が。
それにヒルダがもし勝ったとしても、軍の内部は使える人を失ってスカスカ、文官もシルヴァーベルヒはじめ何人も抜けるだろうし、帝国ガタガタですね。
つくづく人生リセットなんて出来ない、1回限りってことですね。
ただ、アレク殿下、再リセットしても、父方の祖父だとしたら将来が思いやられますが。

べる (08/03 11:28) 編集・削除

あわわ。
このバージョンのエヴァちんに、
ロイロイをどう思っていたか訊いてみたいわwwwwwwww.
しっかし、ミタマイヤが正直者過ぎて相変わらず。

>回答を躊躇うミッターマイヤーに向かって、ヒルダが媚態の篭った眼差しで訴えた。その目を見た瞬間、自他共に認める無骨者が、噂が逆に真実であることを確信した。

このシーンでサクッと面従腹背を誓い「了解」と言って、
後でハイネセンでロイロイと組むのかとw

みんな、ニゲロ!

Jeri (08/03 13:07) 編集・削除

>ごんさん
ビッテンが、あの件を後で知ったかどうかはわかりませんが、キルヒのことはずっとその死を惜しんでいる発言はしていましたね。
同時に結婚式での「ホーフ・カイザーリン」といい、ヒルダに対する敬意やラインハルト死後の忠誠心も強いというなかなかやっかいなキャラです。
ファー様の方がその点ではいい意味で損得で動くタイプだと思ってますので、扱いが楽です。
ケスラーは…この世界では一番貧乏くじかも。

>葉子さん
自分で作った料理を自分で食べるエル。
プライドが邪魔して不味いと言えないw
けどもう食べたくない。
エル:「フェリックス、あなたももう17歳です。帝国軍人は、貴族とはいえ食事くらい作れなければなりません。明日から家族の食事作りはあなたの係です。いいわね?」
フェリ:「はい。母上、わかりました」(助かったぁ~。あれならレトルト温めた方がずっと美味いよ)

>葵猫さん
他のキャラは何かしらの不幸とか平民や下級貴族の悲哀みたいなものを抱えてるのに、全キャラ中、ラストでラインハルトが死ぬ以外全く人生に不幸要素のなかったヒルダたん。
そんなヒルダが、より完璧な幸せを求めてラインハルト延命路線でリセットしたら、誰より不幸になってしまったという皮肉を一度描いてみたかった。(性格悪いです私)
ラストで再リセットを選択するか否かは、最後まで読んで下さい。

>べるさん
え:「私、昔からあの人が苦手だったわ。あなたの親友だから我慢してたけど、私のような女を見下しているのが見え見えで、あなた程の男に相応しくないって思ってるのが丸わかりなのよ」
み:「…」(絶句)

ミミ (08/03 20:00) 編集・削除

えぇぞ えぇぞ ヒルダ ここまで悪だといっそ清々しいよ。地獄への道は善意の石ころで敷き詰められているって ちょっと違うか。善意じゃないもんね、明確な悪と嫉妬だもんね。
あのオーベルシュタインが生きていたらヒルダ皇太后のここまでの専横は許さなかっただろうに、と誰も彼の事を思い出さないのはとても寂しい。銀河帝国軍の中にあって唯一 平民の命の尊さを理解していたのは他ならぬ彼だったのに

Jeri (08/03 21:57) 編集・削除

>ミミさん
悪女ヒルダがこれほど受けがいいのに、正直すごく驚いています。
ヒルダは、ご都合主義のストーリーの犠牲者で、「主人公を動かせなかった存在感薄いヒロイン」「中途半端な意味ない換言ばかりで結果的に点数稼ぎにしかなっていなかった」という気の毒な面があります。
美人で上流階級出で、性格が良くて頭もいいというキャラなので、尚更一部に「ずるい」という印象を与えてしまうんでしょうね。
だからいっそ、「実は凄い腹黒だった」という話に爽快感を覚える人がいるのかなと。
私的に作中の名台詞ベスト1は、オベ様の「帝国は皇帝の私物ではなく、帝国軍は皇帝の私兵ではない」です。

ごん (08/04 00:47) 編集・削除

横レス失礼します。
ご飯つくりを言い渡されるフェリックス(爆)私も考えてました。(ここにもマルコビッチの穴が……)ちなみにグルメの牡牛座生まれでしたっけ。

つまらないこと言ってしまうと、宇宙船という都合上、みんなレトルトとかなのかもしれません。階級の差こそあれ。妹の離乳食はベビーフードかも。

あ、余談ですが、マザー・テレサのあれは、オークションではなく、法王の車を一等商品にした宝くじでした。
宝くじにしたのは、たくさんの人に参加してもらう&結果は神の御心(偶然)によるということにしたかったのかも。

非公開 (08/04 01:02) 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

葉子 (08/04 01:22) 編集・削除

息子を「あなた」、(内縁の)夫を「おまえ」と呼ぶエルフリーデたんに萌えwww

ところで、ヒルダとエルフリーデの家事能力ってどっちが上なんだろう…。
ヒルダは米を洗剤で洗いそうな印象があるんですけど。

「母上、包丁の使い方が(色々と)違います」(フェリックス17歳)

------------------------------------------
>>悪女ヒルダがこれほど受けがいいのに、正直すごく驚いています
きっと私を含めて、皆さん長いこと悶々としていたけれど、言っていいのかどうか悩んでいらっしゃったのかと思われます(爆)。

Jeri (08/06 12:54) 編集・削除

>ごんさん
フェリたんは、実は兄弟の中で一番起用。
ついでにグルメなんで料理の才能もピカ一ということになってます。
顔は父親似なのに、性格はなぜかロイにもエルにも似てなくて何事も波風立てず、敵を作らず上手くまとめてしまう特技の持ち主。
次男は直情型なところが母親に何ですが、見た目はフェリよりもっとロイのコピーw
三男以下はまだ人格未定ってとこです。(ってストーリー上必要なにので書きませんけど)

>葉子さん
>きっと私を含めて、皆さん長いこと悶々としていたけれど、言っていいのかどうか悩んでいらっしゃったのかと
ヒルダに限らず、リアル世界でも「批判しにくい人」っていますよね。
特にヒルダのように、全てに完璧なヒロインって、悪く言ったらこっちがもっと悪者になっちゃいそうで、反発が怖いってのがあると思うんです。
私はヤワラちゃんこと谷(旧姓:田村)亮子の結婚式の中継を見た時、「きれい、きれい」を連発する列席者や、コメンテーターに「お前等、それ、本気で言ってるのか?」と突っ込みたくなりました。
私の正直な感想を言わせてもらえれば、既に似合う似合わない以前に、あの人自分のことを全くわかってないと思いました。
案の定、まだツイッターやフェイスブックの無い時代でしたが、ネット上で一部私が感じたのと同じことをストレートに言ってる人達がいました。
でも、それに対して、その数倍くらいの反論があって、批判内容(ドレスやアクセの趣味の悪さとかそもそもこういうのが似合うタイプの人ではないことなど)そのものよりも、今までひたむきに柔道に精進してきた田村亮子という「一生懸命努力している人」を批判することへの批判でした。
私は別に、柔道着を来て稽古に励み、オリンピックで何度もメダルをとったヤワラちゃんを批判するつもりはなかったんですが、内容がなんであれ、とにかく批判できない人って、いるみたいです。
ヒルダって、よしりん的には主要キャラの中では最も理性的な人間として書かれていて、人格的にも優れていることになっているのですが、どうもその言動と結果が噛み合わず「この人って、本当は自分のことしか考えていない帝国側のエゴイズムの怪物なんじゃないか?」なんて言えない雰囲気があります。
でも実は内心結構そう感じてしまう人がいるみたいなんですよね。
ただ、それは本当にそうなのではなく、やはり作者よしりんの女音痴による演出方法の失敗のような気がします。